2022年4月1日から施行される「プラスチック資源循環促進法」(正式名称は「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」)の概要を、全力でわかりやすく解説するページです。
この法律は、ざっくり言いますと、「プラスチックの使用をできるだけ減らし、どうしても使う必要があるプラスチックについては用済みになった後ちゃんと回収してリサイクルし、資源として活用できるように皆でがんばりましょう」というものです。
この記事では、どんなプラスチックが対象になるのか、そもそもなぜこの法律が定められたのかという概要のところを、条文や政府の文書をもとにご説明したいと思います。それでは行ってみましょう!
プラスチック新法の規制対象となるプラスチックとは
プラスチック資源循環促進法の規制対象となる「プラスチック」とは、第2条に書かれている「使用済プラスチック使用製品」「プラスチック使用製品廃棄物」です。
- 使用済プラスチック使用製品…一度使用され、又は使用されずに収集され、若しくは廃棄されたプラスチック使用製品であって、放射性物質によって汚染されていないもの
- プラスチック使用製品廃棄物…「使用済プラスチック使用製品」がごみ、粗大ごみとなったもの
ちなみに条文はこちら。リンク先の「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(令和三年法律第六十号)(令和3年6月11日公布)」から見られます。
プラスチック資源循環促進法関連資料|『公益財団法人 日本容器包装リサイクル協会
「プラスチック使用製品」とは、プラスチックが使用されている製品のことです。そのまんまです。
そして「使用済プラスチック使用製品」とは、ざっくり言うと不要になったプラスチック使用製品です。「使用済」とありますが、使用されずに収集されたものも含むようです。ややこしいですね。
そして、使用済プラスチック使用製品がごみ・粗大ごみとなったものが「プラスチック使用製品廃棄物」です。
ただし、家庭やお店、会社などにおいてごみ・粗大ごみとなったもののうち、すべてのプラスチック使用製品が対象ではありません。容器包装リサイクル法、自動車リサイクル法、家電リサイクル法、小型家電リサイクル法など、先行する法がある場合はそれらの定めが優先します。
よって、プラスチックが使われている製品がごみになったものでも、車のパーツやテレビ、エアコンなど家電リサイクル法対象の4品目、スマホなどの小型電子機器は、対象外。
言い換えると、これまで「ちゃんと回収しなさいよ、リサイクルしなさいよ」と言われてこなかったプラスチックごみにも規制をかけるのが、プラスチック新法ということになります。
「特定プラスチック使用製品」とは、「商品の販売又は役務の提供に付随して消費者に無償で提供されるプラスチック使用製品」のことで、プラスチック新法で規制されます。
2021年8月23日に公表された政令では、12品目の「特定プラスチック使用製品」が指定されています。「主としてプラスチック製のフォーク、スプーン、ナイフ、マドラー、ストロー、ヘアブラシ、櫛、剃刀、シャワー用のキャップ、歯刷子、ハンガー、衣類用のカバー」です。
参考:『プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律』の政省令・告示について(PDF)
こういった、お客に無料で提供されるプラスチックスプーンやハンガーなどの使い捨てプラスチックは、私たちの暮らしにあふれています。
そこで国は、「このへんに規制をかければプラスチック使用製品の廃棄物をぐっと減らせるんじゃないか?」と注目したのです。
さて、まとめますとプラスチック新法の対象となるプラスチックは、次のようになります。
- プラスチックを使用した製品でごみ、粗大ごみになったもの
- ただし、すでに容器包装リサイクル法、家電リサイクル法など他の法律で規制されているものは除く
- 小売店、ホテル、クリーニング店で提供される使い捨てプラスチック12品目には特に強い規制がかけられる
プラスチック資源循環促進法が制定された背景<
新法が制定された背景
プラスチックは、安価で軽く、扱いやすい素材です。そこで、さまざまな製品や容器、包装に広く利用されており、現代社会に欠かせないものとなっています。
しかしその一方で、多くの問題を引き起こしてもいます。たとえば、海洋プラスチックごみ、地球温暖化などの問題です。
プラスチックごみについては、わが国は長らく「プラスチックのごみは外国に輸出して処分してもらえばいいや」という態度を取ってきました。
※イメージ画像
しかし今や、それもできなくなってきています。廃棄物についての国際的な条約で、汚れたプラスチックごみの輸出が禁止されたからです。日本は、国内でプラスチックをどうにかする必要に迫られるようになりました。
このような状況の変化を受けて、政府は令和元年(2019年)、「プラスチック資源循環戦略」を定めました。
「プラスチック資源循環」とは、とりあえず、プラスチックを一度きりで捨てないで、リサイクルなどで資源として社会の中でぐるぐる回していくことだと考えてください。
「プラスチック資源循環戦略」とは?
2019年に定められた「プラスチック資源循環戦略」は、「3R+Rewable」の考え方と、「野心的なマイルストーン」を掲げるものです。
まず、「3R」とは、「リデュース(減らす)」「リユース(再利用)」「リサイクル(再資源化)」を英語で書いたときの頭文字をとったもの。「Renewable」は「再生可能な」という意味です。
①2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制
②2035年までにプラスチック製容器包装及び製品のデザインをリユース又はリサイクル可能なデザインに
③2030年までにプラスチック製容器包装の6割をリユース又はリサイクル
④2035年までに使用済プラスチックを100%リユース、リサイクル等により有効利用、
⑤2030年までにプラスチックの再生利用を倍増
⑥2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入
(出典:2021年8月23日公表「政省令・告示について」)
「2030年までにすること」「2035年までにすることに」分けて、わかりやすく書き換えてみました。
①ワンウェイプラスチック(使い捨てプラスチック)の排出量を25%減らします
③プラスチック製の容器や包装の6割を再利用するかリサイクルして使う
⑤プラスチックの再生利用を倍にふやす
⑥バイオマスプラスチックを約200万トン取り入れる
②プラスチック製の容器や包装、プラスチック製の製品のデザインを再利用、リサイクルできるようなデザインにする
④使用済プラスチックを100%再利用するかリサイクルして使う
以上が「プラスチック資源循環戦略」です。
おさらいしますと、政府は、プラスチックごみや地球温暖化の問題を受け、「プラスチックのむだづかいをこれ以上増やすわけにいかない!」ということで、こういった目標を決めたわけです。
プラスチック資源循環促進法の「基本方針」とは?
さて、ここで本題の「プラスチック資源循環促進法」の話に戻ります。プラスチック資源循環促進法では、「基本方針」を定めることになっています。
基本方針の詳しい中身はこちら。「政省令・告示について」から引用します。
- プラスチックに係る資源循環の促進等の基本的方向
- プラスチック使用製品の設計又はその部品若しくは原材料の種類の工夫によるプラスチックに係る資源循環の促進等のための方策に関する事項
- プラスチック使用製品の使用の合理化によるプラスチック使用製品廃棄物の排出の抑制のための方策に関する事項
- 分別収集物の再商品化の促進のための方策に関する事項
- プラスチック使用製品の製造又は販売をする事業者による使用済プラスチック使用製品の自主回収及び再資源化の促進のための方策に関する事項
- 排出事業者によるプラスチック使用製品産業廃棄物等の排出の抑制及び再資源化等の促進のための方策に関する事項
- 環境の保全に資するものとしてのプラスチックに係る資源循環の促進等の意義に関する知識の普及に関する事項
- これらの事項のほか、プラスチックに係る資源循環の促進等に関する重要事項
(出典:2021年8月23日公表「政省令・告示について」)
確かにわかりにくいですね。では、ここで1「基本的方向」についてご説明を。
プラスチック資源循環促進法「基本方針」の「基本的方向」とは
プラスチック資源循環促進法「基本方針」の1「基本的方向」の中身です。
- プラスチック資源循環促進法の「R+Renewable」の考え方に従うと、まず必要のないプラスチックは使わないのが一番
- しかし、安全や費用のことを考えると、どうしてもプラスチックを使わなければならないことがある
- そのような場合は、用済みになったプラスチック使用製品を回収し、徹底したリサイクルをする
- これを実現するためには、プラスチック使用製品のライフサイクル全体の関係者が、それぞれ役割を分担して取り組む必要がある
「プラスチック使用製品のライフサイクル」とは、プラスチック使用製品がつくられてから、使用され、捨てられるまでのこと。
「関係者」とは、プラスチックを使った製品のメーカーや、お店や宿泊施設などプラスチックを提供するサービス業、消費者、国、地方公共団体などです。
「基本的方向」には、関係者それぞれの役割分担が書かれています。要約すると、こうです。
- メーカーやお店など事業者は、「プラスチック使用製品設計指針」にしたがって、製品を設計します。また、捨てられるプラスチックが少なくなるような努力をする必要があります。さらに、自分たちが作ったプラスチック製品を自主回収したり、「再資源化」したりするための努力もしなければなりません。
- 市町村は、家庭から出されるプラスチックごみの分別収集や「再商品化」に努めます。都道府県は、市町村に協力します。
- 消費者は、使わなくてもいいプラスチックは使わない、不要になったプラスチック使用製品は、お店や市町村のルールにしたがって分別してごみとして出す、認定プラスチック使用製品を使うなどの努力をします。
- 国は、プラスチックの資源循環のために必要なお金が、必要な人にわたるような仕組みづくりに努力します。
- プラスチック使用製品設計指針…プラスチックを使った製品の設計をする事業者がするべきことについて、方針をまとめたもの
- 再資源化…使用済プラスチック使用製品等の全部または一部を、部品や原材料などとして利用することができる状態にすること
- 再商品化…自治体が分別収集したプラスチックごみを、製品の部品又は原材料として、またはそのまま製品として利用する者に売ったり無料で譲ったりできる状態にすること
です。
プラスチック資源循環促進法の目標とは
さて、プラスチック資源循環促進法「基本方針」の1「基本的方向」には、上で述べたような関係者の役割とともに、「目指す方向」が示されています。
それは、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」と、2050年までに「カーボンニュートラル」を実現するという国の目標、そして「プラスチック資源循環戦略」です。
「プラスチック資源循環戦略」は「3R+Rewable」の考え方と「野心的なマイルストーン」を掲げるものです。「野心的なマイルストーン」とは、「2030年までに使い捨てプラスチックを25%削減する」など6つの目標のことでしたね。
「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」とは、海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指すものです。2019年6月のG20大阪サミットで提案され、参加国の間で「それはいいね」ということになりました。
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「カーボンニュートラル」とは、「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること」です。
わかりやすく言うと、石油や石炭などを燃やしたときに発生する二酸化炭素をできるだけ減らして、植物が吸収したり、人間が回収したりすることができるぐらいの量に押さえましょう、ということです。
これらの目標の達成のために行うプラスチック資源循環の取り組みは、プラスチック使用製品が作られてから捨てられるまでに関係する皆、すなわちメーカーやお店、消費者、国、地方公共団体の努力にかかっています。
「特定プラスチック使用製品」12品目とは?
さて、以上が2022年4月1日から施行されることが決定した「プラスチック資源循環促進法」の概要でした。
ここからは、どんなプラスチックが規制の対象となるのか、誰が影響を受けるのか、罰則はあるのかなど、具体的な話に入りたいと思います。
まずは、この新法で最も注目されている「特定プラスチック使用製品」12品目について。政令ではこう定められています。
① 特定プラスチック使用製品【政令】
商品の販売又は役務の提供に付随して消費者に無償で提供されるプラスチック使用製品のうち、提供量が多く使用の合理化の取組によってプラスチック使用製品廃棄物の排出の抑制が見こまれる観点、過剰な使用の削減を促すべき観点、代替素材への転換を促す観点等から、以下を指定する。
・主としてプラスチック製のフォーク、スプーン、ナイフ、マドラー、ストロー、ヘアブラシ、櫛、剃刀、シャワー用のキャップ、歯刷子、ハンガー、衣類用のカバー
(出典:2021年8月23日公表「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」の政省令・告示について ※以下、“2021年8月23日公表「政省令・告示について」”とします)
フォーク、スプーン、ナイフ、マドラー、ストロー、ヘアブラシ、櫛(くし)、剃刀(かみそり)、シャワー用のキャップ、歯刷子(歯ブラシ)、ハンガー、衣類用のカバー。
これら12品目が、プラスチック資源循環促進法の「特定プラスチック使用製品」です。
その理由は、「提供量が多く使用の合理化の取組によってプラスチック使用製品廃棄物の排出の抑制が見こまれる観点、過剰な使用の削減を促すべき観点、代替素材への転換を促す観点等から」ということのようです。
特定プラスチック使用製品の「使用の合理化」とは?
特定プラスチック使用製品の使用の合理化:次に掲げる取組その他の特定プラスチック使用製品の使用の合理化のための取組のうち、使用の合理化のために業種や業態の実態に応じて有効な取組を選択し、設定した目標の達成に向けて当該取組を行うことにより、プラスチック使用製品廃棄物の排出を抑制するものとする。
【提供方法の工夫】
• 消費者にその提供する特定プラスチック使用製品を有償で提供すること
• 消費者が商品を購入し又は役務の提供を受ける際にその提供する特定プラスチック使用製品を使用しないように誘引するための手段として景品等を提供(ポイント還元等)すること
• 提供する特定プラスチック使用製品について消費者の意思を確認すること
• 提供する特定プラスチック使用製品について繰り返し使用を促すこと
(出典:2021年8月23日公表「政省令・告示について」)
【提供する特定プラスチック使用製品の工夫】
• 薄肉化又は軽量化等の特定プラスチック使用製品の設計又はその部品若しくは原材料の種類(再生可能資源、再生プラスチック等)について工夫された特定プラスチック使用製品を提供すること
• 商品又はサービスに応じて適切な寸法の特定プラスチック使用製品を提供すること
• 繰り返し使用が可能な製品を提供すること
(出典:2021年8月23日公表「政省令・告示について」)
そういうことです。以上が「使用の合理化」の中身です。
要は、お客さんになるべくプラスチック製品を渡さないための仕組みを作りましょう、ということと、どうしても渡したい場合は、軽量化やリサイクルを考えた製品にしましょう、ということです。
これらとは別に、お店やサービス提供者がするべきことには、「情報の提供」や「関係者との連携」があります。
情報の提供:消費者によるプラスチック使用製品廃棄物の排出の抑制を促進するための情報等について、以下の方法又はその他の措置を講ずることにより情報提供する。
• 店頭又はウェブサイトにおいてプラスチック使用製品廃棄物の排出の抑制に資する事項について掲示又は情報発信すること
• 提供する特定プラスチック使用製品にプラスチック使用製品廃棄物の排出の抑制の重要性についての表示を付すこと
体制の整備等:特定プラスチック使用製品の使用の合理化のための取組に関する責任者を設置する等必要な体制の整備を行うとともに、その従業員に対し、特定プラスチック使用製品の使用の合理化のための取組に関する研修を実施する等の措置を講ずるものとする。
安全性等の配慮:安全性、機能性その他の必要な事情に配慮するものとする。
特定プラスチック使用製品の使用の合理化の実施状況の把握等:提供した量並びに特定プラスチック使用製品の使用の合理化のために実施した取組及びその効果を適切に把握し、情報を公開するよう努めるものとする。
関係者との連携:国、関係地方公共団体、消費者、関係団体及び関係事業者との連携を図るよう配慮するものとする。その際、必要に応じて取引先の協力を求めることとする。
(出典:2021年8月23日公表「政省令・告示について」)
さて、いろいろと要求が多いようですね。これらの要求に従わなければどうなるのでしょうか。罰則などはあるのでしょうか?
「特定プラスチック使用製品提供事業者」とは?そして罰則はあるの?
その前に、「誰が」プラスチック新法による規制の対象になるかというところを、確認しておきましょう。
この記事の最初に、スーパーやコンビニ、ファーストフード店、ホテル、クリーニング店を例として挙げましたが、新法ではこれらの事業者たちを「特定プラスチック使用製品提供事業者」としています。
政令では、「各種商品小売業、各種食料品小売業、その他の飲食料品小売業、無店舗小売業、宿泊業、飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業、洗濯業」と定められています。
② 特定プラスチック使用製品提供事業者の業種【政令】
特定プラスチック使用製品の提供量が多く、使用の合理化を行うことが特に必要な業種として、以下を指定する。
(主たる事業が下記の業種に該当しなくても、事業活動の一部で下記の業種に属する事業を行っている場合には、その事業の範囲で対象となる。)
・各種商品小売業、各種食料品小売業、その他の飲食料品小売業、無店舗小売業、宿泊業、飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業、洗濯業
(出典:2021年8月23日公表「政省令・告示について」)
これらの業種にあてはまるとされた人たちが、特定プラスチック使用製品の「使用の合理化」をしなかったり、情報提供をしなかったりした場合、プラスチック資源循環促進法29条によって、国から「必要な指導・助言」を受けることになります。
などとがっかりした皆さん、あるいはホッとした皆さんもいらっしゃると思います。
しかし、注意しなければいけないのは、提供する「特定プラスチック使用製品」の量です。前年度に5トン以上の「特定プラスチック使用製品」をお客さんに渡した「提供事業者」は、「多量提供事業者」となります。
④ 特定プラスチック使用製品多量提供事業者の要件【政令】
使用の合理化の取組を促す必要性・実効性・事業規模などを勘案し、多量提供事業者の要件を以下のとおり規定する。
・当該年度の前年度において提供した特定プラスチック使用製品の量が5トン以上であること
(出典:2021年8月23日公表「政省令・告示について」)
「多量提供事業者」にあたると、29条ではなく30条の対象となり、「取組が著しく不十分」だと判断されると、「勧告・公表・命令」を受けます。
そして、命令に違反した場合は、50万円以下の罰金です。
事業者の皆さんのなかには、
という考え方をする人もいるかもしれません。
ただ、2022年4月にプラスチック資源循環促進法が施行されると、12品目の「特定プラスチック使用製品」を有料にしたり、断ったお客さんにクーポンを配布したりするお店が増えるでしょう。
そんな中、新法の施行前と同じようにプラスチックのストローやスプーンを無料で配っていたら?
「あの店は消費者の味方だ!」とよろこぶお客もいるかもしれません。
その一方で、プラスチックごみのことを気にかけている消費者や、「環境のことを考えている企業やお店にお金をまわそう」と考える銀行や投資家の心は離れていってしまう可能性があります。
よって、使い捨てプラスチックのごみを年間5トンも排出していないよ!という皆さんも、この新法と無縁とは言えないのです。
「提供事業者」と「排出事業者」の違いと罰則
さて、ここまで、プラスチック資源循環促進法は、スーパーやコンビニなどの食品小売り、飲食店、ホテル、クリーニング店を「特定プラスチック使用製品提供事業者」としているというお話でした。
一方で、この法律には「排出事業者」という言葉も登場します。
まず、「提供事業者」のおさらいです。
スーパーやコンビニなどの食品小売り、飲食店、ホテル、クリーニング店などは、プラスチック新法で「特定プラスチック使用製品提供事業者」として規制されることになりました。
これらの業種にあてはまるとされた人たちが、提供方法をあらためなかったり、提供するプラスチック製品を環境に配慮したものにしなかったりなど、きまりに従わなかった場合は、プラスチック資源循環促進法29条によって、国から「必要な指導・助言」を受けることになります。
さらに、提供する「特定プラスチック使用製品」の量が前年度に5トン以上の「特定プラスチック使用製品」をお客さんに渡した「提供事業者」の皆さんは、「多量提供事業者」となります。
「多量提供事業者」にあたると、29条ではなく30条の対象となり、「取組が著しく不十分」だと判断されると、「勧告・公表・命令」を受けます。命令に違反した場合は、50万円以下の罰金が課されます。
と、思うかもしれませんが、そうではありません。
プラスチック資源循環促進法44条によると、事業で「プラスチック使用製品廃棄物」を出す人たちは、例外を除いて「排出事業者」となり、プラスチック新法の規制対象となります。
例外とは、政令で定める小規模な事業者です。これによって「排出事業者」から除かれるのは、
- 商業・サービス業以外の業種で従業員の数が20人以下の会社・組合等
- 商業・サービス業の業種で従業員の数が20人以下の会社・組合等
- 従業員の数が20人以下の一般社団法人等
となります。こういった小規模な事業者さん以外は、「排出事業者」です。
さらに、「排出事業者」のうち、プラスチック使用製品のごみの排出量が250トン以上になる事業者は「多量排出事業者」となります。全事業所、フランチャイズも含むといいますので、かなり厳しい基準です。
「多量排出事業者」にあてはまる事業者さんが、国から「取り組みが著しく不十分」と判断された場合、指導・公表・命令の対象となります。命令に違反した場合、50万円以下の罰金という罰則があります。
プラスチック製品を作る製造事業者の責任
プラスチックを使った製品の設計については、これまでも「循環型社会形成推進基本計画」「プラスチック資源循環戦略」など基本的な考え方が示されてきました。
そして、関係者の間では、プラスチック削減やリサイクルのためのさまざまな取組みが進められています。新法の「プラスチック使用製品設計指針」は、そういったこれまでの取り組みをさらに加速させるものです。
とはいえ、「指針」に従わなかった業者に対して罰則があるという話ではありません。「検討すること」「望ましい」という表現が使われており、今のところは努力目標という位置づけのようです。「指針」は、全部で六つのパートに分かれています。
- 構造
- 材料
- 製品のライフサイクル評価
- 情報発信及び体制の整備
- 関係者との連携
- 製品分野ごとの設計の標準化や設計のガイドライン等の策定及び遵守
「1.構造」では、1)使用する材料や部品が少なく、2)長く使えて、3)再利用やリサイクルに適した設計を、事業者に求めています。
「材料・部品、さらには製品全体として、できるだけ使用する材料を少なくすること等を検討すること」とあります。簡易包装を検討することも求められています。
2)長く使えること
ここでは、製品全体の耐久性を高める、繰り返し使用に耐えるものとする、部品が簡単に交換できるものにする、壊れた場合には簡単に修理ができるような設計を検討することが書かれています。
3)再利用やリサイクルに適している
部品の再利用ができるような設計、リサイクルのために分解、分別、収集・運搬がしやすい設計を検討することとされています。
リチウムイオン蓄電池を使った製品については、特に「リチウムイオン蓄電池とその他の部品等とを容易に分解・分別できることが望ましい」と書かれています。収集・運搬や処理の段階で火災が発生するおそれがあるためです。
「2.材料」については、次のことを考えて製品を設計することが求められます。
- プラスチック以外の素材、再生プラスチック、バイオマスプラスチック、生分解性プラスチックの利用
- 使う材料の種類を減らすこと
- 再生利用をさまたげる添加剤などの使用を避けること
バイオマスプラスチックとは、トウモロコシ、サトウキビなど再生可能なバイオマス資源を原料とするプラスチックのことです。バイオマス資源は成長過程でCO2を吸収してきており、燃やしても大気中のCO2の濃度を上昇させないと言われています。
バイオマスプラスチックの利用は、「バイオプラスチック導入ロードマップ」に示した考え方にもとづくとされています。どういったバイオプラスチックを、どのような製品に使うかを示すガイドラインです。
「3.製品のライフサイクル評価」では、製品のライフサイクル全体が環境に与える影響を考えて、仕様を考えることが望ましいとされています。
「4.情報発信及び体制の整備」には、会社のホームページ、製品本体、取扱説明書などに載せることが望ましい情報が示されています。具体的には、次の①~⑧のような情報です。
②部品の取り外し方法
③製品・部品の材質名
④部品の交換方法
⑤製品・部品の修理方法
⑥製品・部品の破砕・焼却方法
⑦製品・部品の収集・運搬方法
⑧処理時における安全性確保及び環境負荷低減のための注意事項など
「5.関係者との連携」「6.製品分野ごとの設計の標準化や設計のガイドライン等の策定及び遵守」は、項目名そのままの内容です。
以上、「プラスチック使用製品設計指針」とはざっくり言いますと、
「プラスチックの設計・製造をする人は、再利用やリサイクルがしやすいように構造を考えたり、材料を選んだり、関係者と協力したりすることを検討してね」
という内容です。
製造事業者等による「自主回収・再資源化」とは?
プラスチック新法には、「製造事業者等による自主回収・再資源化」の定めがあります。
これは、プラスチック製品をつくったり売ったりお客に提供したりする事業者が、使用済みのプラスチック製品を自分で回収し、再資源化しやすくするためのものです。
条文でいうと、第六章(39条から43条)。ざっくり言うと、メーカーやお店が自主回収・再資源化の事業計画をつくり、国の認定を受けると、その範囲で廃棄物処理法に定める許可が必要なくなる、というものです。
これまで、事業者が消費者から不要になったプラスチック製品を回収する場合、みずから廃棄物収集運搬業や処分業の許可を取ったり、許可を持っている別の事業者に委託したりする必要がありました。
しかし、新法の施行後は、「自主回収・再資源化事業計画」の認定を受ければ、自分で自主回収、再資源化ができるようになります。
「自主回収・再資源化事業計画」を申請する場合、記載しなければならない事項は、39条2項に定められています。ざっくり列挙しますと、こんな感じです。
- 申請者の氏名、名称、代表者や役員、使用人などの氏名、住所
- 自主回収・再資源化事業の内容
- 収集、運搬又は処分を委託する場合、委託を受ける人の氏名や名称
- 収集または運搬に使用する施設
- 処分のための施設の所在地、構造及び設備
- 再資源化に関する研究開発を行う場合には、その内容
- その他主務省令で定める事項
「その他主務省令で定める事項」は、次の通りです。
法律に定めるもの以外の申請事項
- 収集しようとする製品の種類、見込み数量、収集区域、再資源化によって得られる物の利用先
- 廃棄物処理基準に適合しない処理が行われた場合に生活環境に係る被害を防止するために講ずる措置
(出典:2021年8月23日公表「政省令・告示について」)
申請の際には、何をどこでどれだけ集めるのか、再資源化したものはどうやって使うのか、もしちゃんと処理できなかった場合にどうするのかを、示す必要があります。
さらに、次のような添付書類が必要です。
添付書類
- 申請者等が十分な知識及び技能や経理的基礎を有し、欠格要件に該当しないことを証する書類
- 収集又は運搬の用に供する施設(積替及び保管施設を含む)、処分施設が飛散・流出等のおそれがないこと等を証する書類
(出典:2021年8月23日公表「政省令・告示について」)
さて、国は事業者が申請した自主回収・再資源化事業計画を、省令で定められた基準に照らして認定します。事業内容の基準と、申請者等の能力・施設の基準に分かれます。
事業内容の基準
- 収集から再資源化により得られた物の利用までの一連の行程が明らかであること
- 委託する業務の範囲及び委託する者の責任の範囲が明確であること
- 自主回収・再資源化事業の実施の状況を把握するために必要な措置を講じていること
- 使用済プラスチック使用製品に含まれるプラスチックを相当程度再資源化するものであること
申請者等の能力・施設の基準
- 申請者等が自主回収・再資源化事業を適確に行うに足りる知識、技能、経理的基礎を有すること
- 収集又は運搬の用に供する施設(積替及び保管施設を含む)、処分施設について、飛散・流出・悪臭等のおそれがないよう必要な措置を講じたものであること
- 処分施設について、処分に適し、運転を安定的に行うことができ、適正な維持管理を行うことができるものであること
- 必要な許認可を受けたものであり、飛散・流出・悪臭等のおそれがないよう必要な措置を講じた施設であること
(出典:2021年8月23日公表「政省令・告示について」)
その他、プラスチック資源循環促進法の6章には、自主回収・再資源化事業計画の変更にも認定申請が必要であることが定められています。
第43条に「小型電子機器リサイクル法に定めるプラスチック使用製品については適用しない」旨が書かれている点にも注意が必要です。
プラスチック新法における市町村の役割とは?
プラスチック資源循環促進法は、市町村など地方公共団体のプラスチックごみ収集における努力目標も定めています。
・市町村は、プラスチック使用製品廃棄物の分別収集及び分別収集物の再商品化のための体制や施設の整備、分別の基準の策定、指定ごみ袋の有料化による分別排出の促進などの必要な措置を講じるよう努める。
住民の分別排出、つまり住民にプラスチック使用製品のごみを分けて出してもらうための体制づくりの例としては、分別の基準を決めたり、指定のごみ袋を有料にしたりすることが挙げられています。
また、市町村は分別収集にあたり、「再商品化」のさまたげになるリチウムイオン蓄電池などの混入を防ぐため、何らかの手段をとることが求められます。
さて、市町村は、そうして集めたプラスチックのごみをどうするのでしょうか。「再商品化」という言葉から浮かんでくるイメージは、「この商品は再生プラスチックでできています」として売られている服や雑貨などです。
そうではありません。この場合の「再商品化」は、細かく砕いたり固めたりして、再生プラスチックの製品を作る人たちに売れるような状態にすること。一般に「リサイクル」といわれている営みよりも範囲が狭いのです。
そしてさらに、再商品化を行うのは、市町村自身でなくてもよいのです。市町村は、再商品化を「容器包装リサイクル法指定法人」という人たちに委託をすることができます(この人たちがどういう人かというのは、後で説明します)。
この場合、市町村の役割は、集めたごみを「分別収集物」の状態にするところまでです。「分別収集物」とは、ある程度まとまった量のプラスチックごみを集め、汚れや異物を取り除き、圧縮したものです。詳しくは、環境省の省令で定められています。
- 収集されたプラスチックごみの分量は10トントラック1台分
- 圧縮されている
- 以下のようなものが混入していない
・プラスチック使用製品の廃棄物以外のもの
・ペットボトルやしょうゆの容器などPET製の容器
・一辺が50㎝以上のもの
・小型家電リサイクル法に定める小型電子機器
・火災等を生ずるおそれがあるもの(リチウムイオン電池等)、感染のおそれのあるもの
上記の基準にあてはまり「分別収集物」となったプラスチックごみは、「容器包装リサイクル法指定法人」に渡され、再商品化されます。
「容器包装リサイクル法指定法人」とは?
こちらの環境省のページによると、指定法人とは、「公益財団法人 日本容器包装リサイクル協会」のことです。
容器包装リサイクル法第21条第1項に基づき、以下の指定法人を指定しています。指定法人は、特定事業者の委託を受けて分別基準適合物の再商品化を行っています
法人の名称: 公益財団法人日本容器包装リサイクル協会
ホームページ: http://www.jcpra.or.jp/index.html
法人の設立年月日: 平成8年9月25日
法人の指定年月日: 平成9年10月31日(平成8年大蔵省・厚生省・農林水産省・通商産業省告示第2号)出典:環境省_指定法人とは
ただ、日本容器包装リサイクル協会は窓口のようなもので、実際に再商品化を行うのは、協会から再委託を受けた「再商品化事業者」となります。
プラスチック新法の施行前との違いは、容器包装以外のプラスチックごみの処理についても、廃棄物処理の許可を受けた事業者を通さなくてもよくなることです。
また、市町村は「再商品化事業者」と連携して「再商品化計画」を作成することで、「主務大臣が認定した場合に、市区町村による選別、梱包等を省略」することができるようになるとのこと。
まとめますと、新法の施行によって、市町村は住民のごみの分別を進めるための努力をしなければいけなくなるものの、再商品化のための負担は軽くなるということになりそうです。
おわりに
ということで以上、この記事では「プラスチック新法」こと「プラスチック資源循環促進法」について概要、規制される品目、事業者などについてお届けしました。
使い捨てのスプーン、ストロー、ハンガーなど「特定プラスチック使用製品」12品目が特に注目を集めていますが、この法律の基本的方向はこうです。
- プラスチック資源循環促進法の「R+Renewable」の考え方に従うと、まず必要のないプラスチックは使わないのが一番
- しかし、安全や費用のことを考えると、どうしてもプラスチックを使わなければならないことがある
- そのような場合は、用済みになったプラスチック使用製品を回収し、徹底したリサイクルをする
- これを実現するためには、プラスチック使用製品のライフサイクル全体の関係者が、それぞれ役割を分担して取り組む必要がある
そうですね。また、新法に対応した新しいビジネスを考える人がいたり、それによって雇用が増えたり、経済の成長にもつながるというメリットもあります。
2022年4月にスタートする「プラスチック資源循環促進法」。前向きにとらえて、それぞれの役割を果たしていきたいところですね。