2021年10月22日、国の第6次エネルギー基本計画が閣議決定されました。ひとつ前の第5次基本計画と比べて、何が変わったのでしょうか?このページでは、主に2030年度における「エネルギーミックス」目標や、原子力政策を中心に、第6次と第5次の違いを取り上げてみたいと思います。
第6次エネルギー基本計画の概要(令和3年10月資源エネルギー庁)
エネルギー基本計画とは?
「エネルギー基本計画」とは、国の長期的なエネルギー政策の方針です。温室効果ガス削減目標をどうするか、発電に使うエネルギー源の組み合わせ「エネルギーミックス」をどうするか、そのために何をするかなどが示されます。第1次の基本計画は、2010年に定められました。以後、2~3年に1度のペースで改訂され、2018年の5次、そして今回の6次に至っています。
第1次から6次まで、基本計画では、2030年時点におけるエネルギーミックスをどうするかという目標が掲げられています。具体的には、全発電量のうち、化石燃料由来の発電(天然ガスや石炭、石油などによる火力発電)、原子力、再生可能エネルギーその他の割合をそれぞれ何パーセントにするか、という目標です。
この目標は、国内外の情勢によって左右されてきました。例えば、2010年の第1次エネルギー基本計画では、「2030年までに原子力の比率を約5割にする」のが目標でした。当時、すでに「地球温暖化防止」の掛け声があり、政府は、発電の段階では二酸化炭素を排出しない原子力を電力供給の中心に据えようとしていたようです。
ところが、2011年の3月、この計画は見直しを余儀なくされました。東京電力福島第一原子力発電所の事故があったからです。2012年5月には、国内のすべての原発は稼働を停止し、国内の発電量における原子力エネルギーの比率は、一時期、0%となりました。
しかしそこから6年。じわじわと原発の再稼働は進み、2018年の原発の発電量の比率は約5%に。2018年に定められた「第5次エネルギー基本計画」では、原子力発電については「可能な限り依存度を低減する」としつつ、「2030年度のエネルギーミックスにおける原発の比率を20~22%とする」という目標が掲げられました。
このときの再生エネルギーの目標は22~24%です。この22~24%という比率は、第4次エネルギー基本計画と同じです。2016年のパリ協定の発効を受けても、変えなかったようです。
第6次エネルギー基本計画はどこが変わった?
さて、以上をふまえて、第6次エネルギー基本計画はどこが変わったかという話です。2021年の資料「第6次エネルギー基本計画の概要」のはじめには、エネルギー基本計画の全体像として、次のように書かれています。
新たなエネルギー基本計画では、2050年カーボンニュートラル(2020年10月表明)、2030年度の46%削減、更に50%の高みを目指して挑戦を続ける新たな削減目標(2021年4月表明)の実現に向けたエネルギー政策の道筋を示すことが重要テーマ。
⇒世界的な脱炭素に向けた動きの中で、国際的なルール形成を主導することや、これまで培ってきた脱炭素技術、新たな脱炭素に資するイノベーションにより国際的な競争力を高めることが重要。同時に、日本のエネルギー需給構造が抱える課題の克服が、もう一つの重要なテーマ。安全性の確保を大前提に、気候変動対策を進める中でも、安定供給の確保やエネルギーコストの低減(S+3E)に向けた取組を進める。 エネ基全体は、主として、①東電福島第一の事故後10年の歩み、②2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応、③2050年を見据えた2030年に向けた政策対応のパートから構成。 (出典:第6次エネルギー基本計画の概要)
「2050年カーボンニュートラル」というのは、2050年に温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるという目標です。
「2030年度の46%削減、更に50%の高みを目指して挑戦を続ける新たな削減目標」は、補足を加えてわかりやすく言い換えますと、「温室効果ガスの排出量を、2030年度に2013年比で46%削減することを目標とするよ、できれば50%までいきたいところだね」というところでしょうか。この二つは、第5次エネルギー基本計画後に示された目標です。
「S+3E」も第5次エネルギー基本計画とは異なる点。Sは「安全性(Safety)」、3Eは「経済効率性の向上(Economic Efficiency)」「安定供給の確保(Energy Safety)」「環境適合性(Environment)」の頭文字をとったものですが、第5次では、「3E+S」となっていました。つまり、安全性を第一にもってきたわけです。
となると、原発の安全性に懐疑的な私などは「おや?エネルギーミックスにおける原発の比率を下げるのかな?」と期待したわけですが、違いました。第6次のエネルギー基本計画における2030年度のエネルギーミックス目標と、第5次の旧エネルギーミックスとの比較です。パーセントの数字は「第6次エネルギー基本計画の概要」より。化石エネルギーの比率は、天然ガス、石炭、石油の比率を足したものです。
第6次エネルギー基本計画の、2030年度のエネルギーミックスの目標における原子力発電の比率は、第5次基本計画と同じ20~22%。据え置きです。
2019年度の実績では、原子力発電の割合は6%ですから、再エネ同様、がんばって増やしていこう!という方向になります。
※2019年度の電源構成比(数値は「第6次エネルギー基本計画の概要」より)
「概要」の「2030年に向けた政策対応のポイント 【原子力】」を見ると、はっきりと「再稼働を進める」と書いてあります。
いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ、国民の懸念の解消に全力を挙げる前提の下、原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進める。国も前面に立ち、立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう、取り組む。
(出典:第6次エネルギー基本計画の概要)
国内の再生エネルギーの普及が道半ばというところで、世界が「脱炭素」の流れになってきたのは、原発推進派の人にとって都合のよいことでしょう。
もちろん、安全ならば推進でもいいのですが、少なくとも「第6次エネルギー基本計画」を読んだ限り、私は安心できませんでした。今後の原子力政策において、「いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ、国民の懸念の解消に全力を挙げる前提の下」が守られるかどうか、注視していく必要がありそうです。