きょうのお題は「集団自決」です。ある日ツイッターをのぞくと、トレンドっていうんですか、あの画面右のサイドバーみたいなところにそのような物騒な言葉がリンク表示されていまして。
コロナ感染がらみかそれとも戦争がらみか、いずれにしても物騒なことよと思いながらクリックしてみたところ、経済学者の成田悠輔氏の発言が炎上していたのでした。
発言の内容は、日本の高齢化問題の解決策は「高齢者の集団自決、集団切腹みたいなものではないか」というものです。
といっても新しい発言ではなく、成田氏のかねてからの持論が、何らかの経緯で掘り起こされたということのようですね。こちらの記事に氏の「集団自決」がらみの発言がまとめられています。主に拡散されているのは、2021年12月のABEMAプライムでの発言だそうです。
主に拡散されているのは、21年12月のABEMA Primeでの発言だ。この日のテーマは、高齢化や少子化にともなう人口減少の問題で、リモート出演していた成田氏は
「僕はもう唯一の解決策ははっきりしていると思っていて、結局高齢者の集団自決、集団切腹みたいなものではないかと…」と述べた。
出典:成田悠輔氏、物議醸す「高齢者は集団自決」発言は持論だった メタファーと説明も…「老害化」社会防ぐ「最強のクールジャパン政策」と直言: J-CAST ニュース【全文表示】(2023年01月12日)(太字は筆者)
ABEMA Primeの動画はこちら。17:30から成田氏の件の発言が始まります。
さて、「自決」という言葉には二つの意味があります。一つは、自分で自分の行動を決めること。「民族自決」というときの「自決」はこの意味です。
もう一つは自ら命を絶つこと。「集団自決」というときの「自決」は通常この意味です。上で引用した成田氏の発言は、後に「集団切腹」が続くこともあり、おそらく二番目の意味なのでしょう。お年寄りは決起せよ、ではないと思います。
さて、ツイッター上では成田氏の「集団自決」動画拡散を受けて、「民間人の集団自決で知られる沖縄戦の悲惨な歴史を何と考えるのか」「優性保護思想につながる」などの批判が巻き起こっています。
私自身は、まあ戸惑いましたね。真面目に受け取っていいものかと。
こちらの成田さんのツイートが頭に残っていたということもありますし。「本を出したことをはじめて後悔した」ツイートです。成田氏の著書「22世紀の民主主義」が、Amazonの「よく一緒に購入されている商品」欄で、百田尚樹氏「禁断の中国史」とガーシー「死なばもろとも」と一括りにされていたという内容。
本を出したことをはじめて後悔した pic.twitter.com/kDKReQQHSg
— 成田 悠輔 (@narita_yusuke) July 16, 2022
読者の傾向が同じだとすると、成田氏は挑発的な言葉で人を煽って怒らせたり、カタルシスを得させたりするタイプの知識人かもしれません。なので私は当初、その発言は割り引いて聞くべしと処理しました。
しかし、その後私は考え直しました。そういったタイプの知識人を崇める人たちは、
- 高齢者がいわゆる現役世代に負担をかけているというのが事実だとして、集団自決は「唯一の解決策」なのか?
- いちどある集団を排除していいということになると、次のターゲットは他の集団にも移るのではないか?
- 何かの加減で、自分も排除される側に入るのではないか?
などということに思いをいたすことなく、カジュアルに高齢者排除に傾いてしまうのではないかと思い、ぞっとしたからです。
よって、成田氏の「集団自決」という言葉のチョイスは感心しない、メタファーだとしても駄目だ、と言うことにします。
いや、なんのことはない、1970年生まれの私も近いうちに「高齢者」のカテゴリに入るわけでして。いや、ある属性の人たちからすると、すでに社会の負担になっているかもしれません。
しかし「社会問題の解決」や「クールジャパン」とやらのために自決するという覚悟は、今のところないんですよね。
よって、映画「プラン75」の世界で可決された法案や、映画「ミッドサマー」に登場する儀式なんかが勢いで採用される世の中にならないよう、「集団自決」のような発言には異を唱えていきたいなあと思った次第です。
「ミッドサマー」(2019年) の夏至祭の場面。アメリカの大学生グループが、メンバーの一人の故郷に招かれます。一見のどかな村は、古代北欧の異教を信仰するカルト的な共同体でした。
第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門正式出品作品の「プラン75」予告編。「プラン75」とは、75歳以上の高齢者に死を選ぶ権利を認めて支援する、劇中の制度の通称です。ある日、賠償千恵子さん演ずる主人公が、そのプランの対象者に選ばれたという連絡を受けます。
ちなみにどちらの作品も観ましたが、どちらで迎える最期もしんどそうで、ちょっと受け入れがたいなあと思いました。