甲南女子大学名誉教授の奥田和子氏による『本気で取り組む災害食』を読んだ感想。野菜や弱者のための食の備蓄など、いいこともたくさん書かれているのだが、がっかりしたことも多かった。
奥田氏は、1995年の阪神淡路大震災後に出版された『震災下の食』などの著書がある、災害食のエキスパートだ。阪神淡路ではご自身も被災。その体験も併せて綴られているため、災害時にどんな食が必要とされているかがよく分かる。
20年後の『本気で取り組む災害食』の目次はこちら。
目次
第1章 熊本地震が投げかける災害食の問題点と教訓
第2章 災害食とは—選び方のポイント—
第3章 災害時に足りない野菜—備蓄のコツ—
第4章 自治体に求められる飲食料備蓄とは
第5章 災害時の炊き出し準備—アルファ化米の活用法—本気で取り組む災害食 個人備蓄のすすめと公助のあり方より引用(抜粋)
ご自身の長年のリサーチにもとづく提言に、熊本地震の避難所の食事情と、アルファ化米の活用法をプラスしたものという印象だ。ちなみに、第2~4章は、「NHK そなえる防災」に連載された全4回のコラム(2013~2014年)を再編したものといっていいと思う。ほぼ同じ内容をWebで読むことができる。
第1回 災害食の選び方 ~ポイントとコツ~
今すぐ用意しよう! 発災後、おなかと心を満たしてくれる自分好みの災害食第2回 災害時の炊き出し準備はできていますか?
自動炊飯器がないとご飯を炊けない現代人。避難訓練では釜でご飯を炊く訓練も必要!第3回 災害時に足りない野菜 ~備蓄のコツ~
震災後、多くの人が悩まされた便秘の原因は野菜不足! 主食以外に野菜の備蓄も不可欠第4回 救援物資の食料はもっと役立たなければならない
自治体が備蓄している救援食料は被災地で役立たない!? 弱者向け備蓄への転換が必要NHK そなえる防災サイトより
さて、本書を読んで、あらためて疑問に思ったのは、非常時に炊きたてご飯は食べないといけないのか?ということだ。
米は、調理に大量の水と燃料、そして道具と人手を必要とし、しかも炊き上がったご飯は保存がきかない。本書第1章でも触れられているが、熊本地震では、炊き出しのおにぎり由来の食中毒があったというし。
熊本市中央区の避難所で今月6日に避難者らが嘔吐(おうと)や下痢の症状を相次いで訴えていた問題で、市保健所は9日、避難所で配られたおかかおにぎりによる集団食中毒と断定したと発表した。有症者の便や残ったおにぎりから、食中毒を引き起こす黄色ブドウ球菌が検出されたという。
平時に「炊きたてご飯がないと生きていけな~い」って言ってるのは勝手だが、非常時にはその信仰は捨てられないものなのだろうか。炭水化物ならパンや乾パンや菓子からでも補給できるのだし、どうしても米にこだわるなら、本書第5章で大フィーチャーされてるアルファ化米だってある。
いろんなバリエーションがあるのねー。
ちなみに、アルファ化米は、水以外でも戻すことができる。例えば、野菜ジュースで戻すと、リゾットみたいになるらしい。
しかし、根強い抵抗があるのか何なのか、奥田氏は、最終章で災害時の炊飯を推奨。
阪神・淡路大震災、東日本大震災では、ガス、水道が回復するまでに長期間かかりました。その間、自衛隊をはじめNPO、NGO、ボランティアがご飯を炊いて避難所の食事を支えました。被災者は、温かいご飯とおかずというパターンの食事様式を強く望んでいたからです。これほど加工食品が氾濫していても、災害時に温かいご飯が食べたいという食文化は避けて通れないことを再認識しました。この現実を直視し、自助(個人)・共助(地域住民)・公助(自治体)がともに力を合わせて、ご飯を炊くことに本気で取り組む必要があるでしょう。
(『本気で取り組む災害食』P.83より)
「本気で取り組む」の、そこかーい。災害食のプロには、「効率よく食べてさっさと復興しようぜ!」という方向に行ってほしかったのだが。もちろん、温かい食事自体は私も求めると思うのだが、なぜそこまでして白飯。