「卒FIT」とは何でしょう?3行でまとめますと、こんな感じです。
- FITの買取期間が満了すると「卒FIT」となる
- 卒FITの電気は引き続き売電することができる(ただしFITより安い)
- 買取先が見つからない場合は「一般送配電事業者」が引き受ける
以前の記事「FIT制度とは?電気代値上げの原因『再エネ賦課金』との関係をわかりやすく解説」で、ざっくりと再エネ電力の固定価格買取制度、通称「FIT」のご説明をしました。
その中で、FITの制度を
「事業用では20年、家庭用の場合は10年にわたって、最初に取り決めた高価格で、発電するだけ買い取ってもらえる」
と説明しましたが、今回の記事では「最初に取り決めた高価格」のところを、もう少し詳しく。そして、その買取期間の終了後、いわゆる「卒FIT」後はどうなるのかを説明します。
FITの買取価格は10年で25~30円/kWh下がった
FITは2012年にスタートしました。当初の太陽光発電の固定買取価格は住宅用(発電容量10kWh未満)で42円/kWh。事業用で40円/kWhです。
一般的な電気代の単価は20~30円/kWhぐらい。それと比べるとかなり高いと言えます。
なぜそのような高い価格だったかというと、より多くの人に再エネ発電をしてもらうためです。
東日本大震災の直後の日本には、原子力にはもう頼れないかもという空気がありました。また、LNGなど輸入燃料の値上がりなんかもあって、再エネの普及に期待がかかっていました。
そこで政府は、再エネ発電に設備投資をしようとする人や会社を、手厚く保護することにしました。発電しただけ、市場価格にかかわらず、決められた期間決まった価格で電気を買い取ることにしたのです。これがFITです。
ああ、残念。かなり出遅れましたね。再エネ事業に参入した会社や、太陽光パネルを自宅に設置した人たちが、みんな40円/kWhという高値で買い取りを受けているわけではありません。
「決まった価格」はFITの認定を受けた時期によって異なります。そしてその価格は、年々安くなっています。「太陽光パネルの値段も下がってきたことだし、設備投資にもそんなにお金かからなくなったよね?」ということのようです。
どのぐらい安くなっているかというと、住宅用太陽光の場合、2013年度の認定を受けた人に適用される買取価格は、38円/kWhでした。
それが、2016年度の認定では31円/kWh。毎年2~3円/kWh値下がりし、2022年度の認定では17円/kWh、2023年度の認定では16円/kWhとなっています(2022年3月25日公表値)。10年の間に、kWhあたり22円も下がっちゃったんですね。
それぞれ決まった価格での買い取りは、FIT期間満了まで続きます。期間は住宅用で10年、事業用で20年です。
「卒FIT」したらどうなる?
まず、同じ設備で再びFITの認定を受けることはできません。設備を更新したとしてもダメです。住宅用で10年、事業用で20年でFITは終了です。いわゆる「卒FIT」というやつです。
ただ、卒FITしたからといって、発電ができなくなるわけではありません。お持ちの再エネ発電設備でつくった電気は自分で使うことができますし、引き続き売ることもできます。
FITの買い取り契約が「自動継続」になっている場合は、何もしなければ、そのまま元の電力会社との契約が継続します。
ただし、この場合の買い取り価格は「新たな単価」となります。これはFITの買取価格より安いです(2021年現在、標準的なプランで7~9円/kWh)。
FITの契約が自動継続になっていない場合は、新たな買い手として電気小売事業者を探すことになります。
買い手は元の電力会社の系列の電気小売事業者でも、新電力でもよいです。買取価格は、新電力の方が少し高い傾向にありますが、まあFITの最新の固定価格である16円/kWhにもはるかに及びません。
気持ちが分かりますが、もとよりこれが妥当な価格です。
FITは、再エネ発電を促すための制度で、いわば補助金みたいなもの。「住宅用で10年、事業用で20年もたてば、設備投資をした分の元は取れたでしょ、あとは自立して、市場価格で売ってね」ということなのです。
卒FITの再エネ電気を買ってくれる電気小売事業者は、資源エネルギー庁のサイトにまとめられています。
新たな売電先が見つからない!
ところで、新たな売電契約が卒FITまでに間に合わなかった、または契約した電気小売事業者が倒産してしまったなど、電気の行き先がなくなった場合はどうすればいいのでしょうか。
この場合は、一時的な受け皿として「一般送配電事業者」が電気を無償で引き受けることになっています。
一般送配電事業者とは、これは大手電力会社の送配電部門が子会社化されたものです。
2020年の「送配電分離」という制度の変更を受け、電気を送り届ける部門は電気をつくる部門と分けることになりました。
「東京電力パワーグリッド」「関西電力送配電」「東北電力ネットワーク」などが一般送配電事業者にあたります。卒FIT後の新たな売電先がない場合、こういった会社が余った電気を引き受けることになります。
人聞きが悪いですね。一般送配電事業者の仕事は買い手があらかじめ決まっている電気を運ぶことです(これを「託送供給」といいます)。
計画にない電気の引き受けは余分な仕事であり、タダで引き受けたからって儲けになるわけじゃないのよ、という話のようです。
ということで以上、卒FITのお話でした。おさらいしますと、
- FITの買取期間が満了すると「卒FIT」となる
- 卒FITの電気は引き続き売電することができる(ただしFITより安い)
- 買取先が見つからない場合は「一般送配電事業者」が引き受ける
となります。これからFITの期間満了を迎える人、「勤め先で卒FITの電気を買うことになったけど予備知識がないよ」という方のご参考になりましたら幸いです。