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「~にくい」「~づらい」の違いとは?丸川五輪担当大臣の「通じづらい」発言の文法的意味を考える

通じづらい 時事
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「新型コロナウイルス感染症対策分科会」の尾身会長が、今夏の東京五輪開催に苦言を呈したことにつき、五輪担当大臣の丸川さんが「全く別の地平」などとコメントし、批判が噴出しているという話です。

我々はスポーツの持つ力を信じて今までやってきた。全く別の地平から見てきた言葉をそのまま言ってもなかなか通じづらいというのは、私の実感でもありますが…

「何のために五輪開催?」丸川大臣、橋本会長は・・・(2021年6月4日)

丸川さんは、先日、IOCの幹部に対して憤りを表明する国民に対し、「むべなるかな」と殿上人のようなコメントをし、不評を買った方です。別の地平にいらっしゃったなら仕方がないですね。ただ、今夏の五輪開催の支持を国民から得たいというのなら、もうこの方にはしゃべらせない方がいいのではないでしょうか。

なお、「むべなるかな」の意味については、弊サイトの日本語クイズでも採りあげていますのでご参考ください。

「むべなるかな」の意味とは?使い方や例文が学べる日本語クイズ

いやしかし、閣僚の誰が地雷になりそうな発言をするかなんてことは、政府の偉い人はとっくに把握しているはずです。ここはむしろ、意図的にそういう人材を投入していると考えてみるのもありかもしれません。例えば、重要な法律をしれっと成立させるための陽動とか。

ちなみに、6月1日にいつの間にか衆院を通過していた「土地利用規制法案」が、6月4日から参院で審議入りしました。

適用範囲が曖昧で、白紙の部分は政府の基本方針や政令に委ねられる部分が多いという、じつに薄気味悪い法案です。公安の人は「法案に基づく措置は、必要最小限度となるよう明記している」(安全保障上重要な土地利用規制法案” 参院で審議入り | NHKニュース)と言ってますが、その「必要最小限度」を具体的に条文に盛り込んでくれなきゃ怖いんですってば。

さて、前置きが長くなりましたが、このサイトは「まいにち日本語.jp」ですので、冒頭の丸川氏発言のうち、日本語として気になるところを取り上げたいと思います。「全く別の地平から見てきた言葉をそのまま言ってもなかなか通じづらい」の「通じづらい」の部分です。

私は、そこは「通じにくい」では?と思ったのですが、自分自身、「づらい」「にくい」の違いには曖昧なところがありましたので、この機会に使い方を整理してみることにしました。

動詞+「づらい」の辞書による定義の一例はこちら。

二.(中略)
(する方の側に)何らかの障害があって、そうしたい(しよう)と思っても思うように事を運ぶことができない状態だ

引用:新明解国語辞典 第8版「つら・い【辛い】」より

一方、同じく新明解における動詞+「にくい」の定義はこのように。

二.(中略)
(一)そうすることに抵抗感があって出来ない様子だ
(二)仕組みなどの点から容易には実現できない様子だ

引用:新明解国語辞典 第8版「にく・い【憎い】」より
※( )に漢数字の部分は、本来○つきの漢数字です

これらの定義によると、「通じる」には、「する方の側」というのがそもそもないので、「~づらい」という言い回しは、なじまないのではないでしょうか。

「通じる」かどうかは、客観的な要素、例えば論理や文法の正確さ、前提となる知識が共有されているかどうかなどに左右されるもので、そこに発信者の思いが介在する余地はありません。

なので、「にくい」の定義二の(二)「仕組みなどの点から~」を適用して、「通じにくい」とするのが適切ではないかと思います。

ただ、昨今「伝わりづらい」「理解されづらい」「左右されづらい」「予約が取りづらい」「聞こえづらい」など、本来「にくい」が適切とされる動詞に「づらい」を使う用例が多く見られます。

そんな状況を受け、辞書のなかには「新しい言い方」として採用しているものもあるとのこと。

言葉の変化を敏感に取り入れる三省堂国語辞典では7版(13年)で、「-づらい」の項目に「②『にくい(造語)』の新しい言い方」が入り、「手にはいりづらい」など、非意図的な動作の用例も挙げています。

「~づらい」(×「~ずらい」)と「~にくい」の違いは | 毎日ことば

この「新しい言い方」によると、丸川さんの「通じづらい」も許容されることになりそうですね。

体育の成績がおおむね「3」だった人間としては、「スポーツの持つ力」にむしろ苦しめられてきたという自覚があり、ここでは件の発言を日本語の誤用と切って捨てて腹いせをしたかったのですが、失敗に終わったようです。無念。

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