最近、『ファストファッション: クローゼットの中の憂鬱』を読んでいる。最初タイトルを見て、ファストファッションの服を買い漁ってクローゼットが一杯!断捨離しなきゃ!という内容かと思ったこの本。
まあ実際、筆者のエリザベス・L. クラインさんのクローゼットの中には、実際300枚以上の格安ファッションの服が詰まっていたという話なのだが、そこからファストファッションをめぐるアパレル業界の暗部に切り込んでいくという至って真面目な本。話題は労働や環境、違法コピーの問題にも及んでいて、面白い。
とりわけ興味深かった話題の一つが、衣類のリサイクルの話。
繊維再生業者は、回収される古着がどんどんボロ雑巾のようになってきているのに気づいている。「品質は加工の一途だ」(中略)格安ファッションチェーン店の商品がその原因か、ときいてみた。「そのとおり」と答えながらも彼はやや慎重に言葉を継いだ。「ウォルマートやKマート、ターゲットの店舗数が増えてアパレル市場でシェアを拡大していると聞いて、納得がいったよ」
格安ファッションの台頭とともに、古着の価値が低下。結果、再生業者はたまに流れ着いてくるヴィンテージもの(主に1990年以前の古着で、仕立てや素材がしっかりしているものを言うようだ)で利ざやを稼ぐようになり、値をつり上げたので、再生業者からそういった古着を仕入れるショップの人は頭が痛いらしい。
そんなエピソードを読みながら、確かに服1枚の価値が昔より軽くなったなあ、私の母が若い頃(1960年代)には、外出用の服なんかは用品店で仕立てることも珍しくなかったというし、などということを考えていたら、11月23日付の日経MJがこんな特集を。
【23日付 MJから】母親のクローゼット(ママクロ)を物色し、若い頃に着ていた洋服を見つけ出して、コーディネイトに取り入れる女性が増えています。品質の良さに加え、独特の色味やデザインが「オンリーワン」の魅力を醸し出すのが人気の理由です。16面です。
— 日経MJ (@nikkeimj) 2015, 11月 22
母親(ママ)のクローゼット、略して「ママクロ」。現在60歳以上のお母さんのクローゼットが宝の山だと、お洒落な女性の注目を集めているらしい。
紙面には、母親(63)のシャネル風のジャケットと自分のデニムを合わせる35歳の美容室オーナーや、母親(63)の花柄のツーピースを着こなす22歳の会社員の写真が掲載されていた。
いずれも読モかというレベルで普通にファッショナブル。つまらん、という個人的感想はさておき、ファッションジャーナリストの高橋佳子さんによると、1970年代の個性的なファッションが注目されたことで
「デザイン性が高く質も良い母親世代の洋服がリスペクトされている」
とのこと。
また、古着販売の「3びきの子ねこ 池袋店の」店長さんによると、
「ブラウスの襟ひとつとってもさまざまな種類があるなど、今の洋服にはないデザイン性がある」
とのことで、ボタン、襟、裏地など細かい部分が凝っているところに魅力を感じる人は多いらしい。確かに、昔の服のボタンって、バリエーション豊かだったなあ。母のミシンの脇にあった瓶には、さまざまな色、素材、形のボタンが入ってた。
あと、デザインに関してだけど、タンスや押し入れの中に、ガウチョみたいな幅広のロングキュロットや、サイケデリックな幾何柄のブラウス、布地のしっかりしたツイードのスカートなど、今の視点で見るとお宝っぽい服があった記憶が。
ということで60代以上のお母さん・お祖母ちゃんを持つみんなは、次の休みの日にでも、クローゼットを見せてもらおう。思わぬ掘り出し物があるかもしれない。
あなたが男性、もしくはファッションに興味がない女性である場合も、ぜひ。上記『ファストファッション』で言うところの「ヴィンテージ」に該当する服が眠っている可能性がある。あ、もちろん勝手に持ち出して売っぱらっちゃちゃいけませんよ。着なくなった服にも思い入れがあるという人はいるのでね。
ちなみに「着なくなった服」で思い出したのだが、私がまだ10代前半の頃、実家でちょっとした事件があった。
母が若かりし頃にピアノの発表会で着用したベルベットのスカート(とっくにサイズアウトして履けない)を、酔った父がなぜか爆笑しながら無理やり着ようとして破ってしまい、母を激怒させたのだ。あれは何がしたかったのだ父よ。