齋藤孝・著「書ける人だけが手にするもの」(SB新書 2022年1月)を読んでいます。
本書の「はじめに」によると、書くことにより自分がどんな人間かを深く理解することができ、「書ける人」は「自分らしく充実した人生」を手にすることができる、とのこと。
「書ける人」ははっきり定義されていないようですが、おそらくこれは伝えたい情報、書くべき分量、書き手である自分がどう見られたいか等々によって変わるのでしょう。読者がそれぞれ、自分の目的にあわせて本書の中からつかみとっていくところではないかと、私は受け止めました。
ということで、ここでは私が本書から得た「書ける人」になるための手法や考え方を紹介することにします。まだ目次を見ながらざっと全体を眺め、気になるところを拾い読みした段階ですが、それだけでも収穫がありました。
目次です。
序章 話すように書けば、原稿用紙10枚書ける
第1章 文章の書き方には「型」がある
第2章 文章は準備が9割
第3章 迷わず書ける処方箋
第4章 「読む」ことで「書ける」人に生まれ変わる
口下手にはかえって難しい?「話すように書くトレーニング」
まず、序章の最後に収録されている「話すように書くトレーニング」3つのステップについて。引用させていただきます。
「読む」→「話す」→「書く」で文章の基礎体力がつく
【ステップ1】好きな本を読み、キーワードをピックアップする
【ステップ2】読んだ感想を人に話す
【ステップ3】話した内容をもとに書いてみる
いきなり難癖をつけるようで恐縮ですが、これを読んだ私の感想は、「それができれば苦労はないんや……」でした。ステップ1からステップ2へのジャンプの幅がでかすぎます。
ステップ2は、読んだ文章を身近な誰かにおすすめするつもりで話すというものです。ここで推奨されるのは、【ステップ1】でピックアップしたキーワードを織り交ぜ「書き言葉の残り香がある話し方」をすること。
私の場合、この【ステップ2】を実現するためには、綿密に読書メモを作る必要があるなあと思いました。
そして、それができるならもう【ステップ3】に移行できる、すなわち書けるのです。
むしろ、口下手で記憶力の弱い人間は、【ステップ2】を経ることでせっかくのネタを腐らせてしまう可能性があるんですよね。私は、読んだもののキーワードをピックアップするところまで準備していても、だいたい紹介に失敗します。そして、
「あれ?すごいものを読んだと思っていたけど、レビューを書くほど感動していなかったのかもしれない」
となって原稿用紙10枚どころか0行で終わってしまうことがあります。ひとまず「書いてみる」のが目標である場合、これでは本末転倒です。
ただ、【ステップ2】の説明をよく読むと「書くように話すトレーニング」とあります。話すにもトレーニングがいるわけで、この「3つのステップ」は、「話す」「書く」のフィードバックを繰り返すうち良いものになっていくのだと理解しておこうと思います。
よい文章を「読む」ために実践できそうなこと
ところで、「話す」「書く」の前に【ステップ1】の「読む」ができないと話にならないわけですが、第3章の「迷わず書ける処方箋」、第4章「 「読む」ことで「書ける」人に生まれ変わる」に有益な情報が詰まっています。
多くの文章術の本にはたいてい「古典に触れろ」「よい文章を読め」と書かれています。本書も同様ですが、著者の体感をもって具体的に語られているのを読んだのは、本書が初めてかもしれません。
例えば、こんな感じ。語彙を増やすための読み方のヒントになります。
人が書いたものを読み、新たに知った概念・言葉について、カタカタとタイプしたり入力したりする。もちろん手書きでメモをとる場合もあるでしょうが、こうして「言葉を文字にする」ということが習慣化すると、ある変化が起こります。
不思議なことに、話しているときにもその言葉の文字列が頭に浮かぶようになるのです。
このことを著者は「書くことを積み重ねると、話し言葉にも書き言葉が現れるようになる」と表現しています。
断片的なメモでも、それが積み重なっていくと、記した言葉の一つひとつが「自分が使いこなせる語彙」として自然に話し言葉にも加わってきます。こうして語彙力が磨かれ、話すときの内容までもが深みを増していくのです。
これは私、実践しようと思いました。文章を書いたり打ったりするのは手間がかかりますが、やってみると、仮名遣いや読点の位置など、読んでいるだけではわからない書き手のリズムのようなものが伝わってきます。内容の備忘録にもなりますしね。
リズムという点では、音読もおすすめだそうです。そういえば、齋藤さんは「声に出して読みたい日本語」の著者でした。
とりわけ、ドイツ文学者の吉井由吉さんから聞いたという音読についての話が興味深かったです。P.181「音読で名調子を身につける」より。
古井さんは、どうも執筆がうまくいかない、調子が上がらないというときに、「音痴になっている」と思うそうなのです。(中略)自分が音痴になっていると感じたら、夏目漱石の小説を声に出して読むそうです。すると、てき面に回復し、また執筆がはかどるようになるとお話しされていました。
プロ歌手の歌にあわせて歌って、音程を確認するようなものでしょうか。これもすぐ実践できそうですね。声に出すことで、内容のインプットという意味でも、話す力の向上という意味でも効果がありそうです。
その他「書ける人だけが手にするもの」の読書メモ
ということで、今回の「書ける人だけが手にするもの」の読書から得られたものは以上となります。「書ける人」になりたい人はもちろん、「読む」「話す」力を鍛えたい!という人にもおすすめです。
今日のところはちょっと文章化できませんでしたが、他に真似できそうだと思ったことをメモしておきます。
=アウトプットを意識してインプットする
何を求めているかを意識しているとインプットの効率が上がる
齋藤さんが「文学作品における呼吸」執筆をするときの情報収集の例
古典や名著は普遍性がある、共通認識が確立されている
「漱石が言っている」だけで説得力がある
誰もが知っている作家のそれほど知られていない名文の引用(例:星の王子様以外のサン=テグジュペリ作品)
ドラッカーの要約力