ことわざ「火中の栗を拾う」の使い方です。橋本聖子氏が東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の会長に就任したことについての安倍前首相のコメントより。
「(橋本氏には)火中の栗を拾っていただくことになったと思いますけれども、女性の活躍のシンボルでもありますから、ぜひ頑張ってもらいたいと」(安倍晋三前首相)
火中の栗を拾う。自分の利益にならないのに他人のために危険を冒すことのたとえです。意訳すると「メリットないどころかリスク取ることになるけど頑張ってね」というところでしょうか。少なくとも安倍さん自身は引き受けたくないのだろうな、ということが推測される発言です。
それにしても、森さんがあれだけ辞任をしぶったり、森さんが後任として指名した川淵さんも乗り気だったように見えたりしたことから、組織委員会会長という職には就任した本人に相当ウマ味があると思っていたのですが、誤解だったのでしょうか。
それとも、橋本さんという人がこの経緯とタイミングで会長に就任したことが「火中の栗を拾う」なのか。
いずれにしても、安倍さんの発言は、このことわざの由来を知るとさらに味わい深いです。イソップ寓話『猿と猫』から来ているのですが、ざっとこんなお話。
- 猿と猫は同じ家で暮らしており仲良しだった
- 二匹はあるとき暖炉で焼けている栗を食べたくなった
- 猿は「自分が取ってもいいけど君の方が上手だよね」と猫をおだてる
- 猫は手にひどい火傷をしながらも何とか栗を火から取り出す
- 火から取り出された栗を猿は独り占めしてしまった
そして、お話はこんな格言で締めくくられています。
「おべっか使いはあなたをだしにして得をしようとします」
なんと、「火中の栗を拾う」は、おだてられてリスクを取っても利用されるだけかもよ、という教訓を含みうることわざだったのでした。安倍さんが「火中の栗を拾っていただく」にどこまでの意味を込めていたのかどうかは不明でありますが、「猿」は誰なんだろうとか考えると楽しくなってきますね。
以上、ことわざ「火中の栗を拾う」の意味と由来でした。単に「人のため危険を冒す」というだけではなく、「おだてられてわざわざ」というニュアンスを含みうるということで、使用の際には注意が必要かと思います。
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