Q. 2021年11月2日に、日本が【化石賞】を受賞した理由はどれでしょう?
①火力発電所の利用を推進している
②2050年カーボンニュートラルを表明していない
③原子力発電所の再稼働を進めようとしている
解答と解説
「化石賞」とは、COP(国連気候変動枠組み条約の締約国会議)の会期中、温暖化対策に消極的だと判断された国に、非難を込めて与えられる賞です。
この賞の主催は、「気候行動ネットワーク(Climate Action Network、略してCAN)」。1999年のCOP5(第5回締約国会議)から始まりました。なおCANは、国連やCOPとかかわりなく気候変動問題に取り組む環境NGOをまとめる団体です。
賞の名前の「化石」には、温室効果ガスを発生させる化石燃料(石炭、石油、天然ガスなど)という意味と、 新しい時代に適応しない古いものという批判が込められています。
化石賞には、COPの会期中に毎日選ばれる「本日の化石賞」と「年間化石賞」があります。2021年のCOP26で、日本は11月2日に「本日の化石賞」を受賞しました。
日本の受賞の理由は、COPの首脳会合の演説で、岸田首相が火力発電所を推進していたというものです。以下、11月2日の岸田首相の「COP26世界リーダーズ・サミット」での演説の引用です。
アジアにおける再エネ導入は、太陽光が主体となることが多く、周波数の安定管理のため、既存の火力発電をゼロエミッション化し、活用することも必要です。日本は、「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ」を通じ、化石火力を、アンモニア、水素などのゼロエミ火力に転換するため、1億ドル規模の先導的な事業を展開します。
出典:令和3年11月2日 COP26世界リーダーズ・サミット 岸田総理スピーチ | 首相官邸ホームページ
「既存の火力発電をゼロエミッション化し、活用することも必要」「化石火力を、アンモニア、水素などのゼロエミ火力に転換するため、1億ドル規模の先導的な事業を展開します」という部分が、化石っぽいと認定されたようです。
よって、クイズ「2021年11月2日に、日本が【化石賞】を受賞した理由は?」の正解は①「火力発電所の利用を推進している」でした。②「2050年カーボンニュートラルを表明していない」というのは不正解。また、③の原子力発電については、岸田首相スピーチでの言及はありませんでした。
【正解】①
②について。日本は、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しており、2021年10月23日に公表された「第6次エネルギー基本計画」にも盛り込んでいます。COP26の岸田首相のスピーチでも表明されました。
「2050年カーボンニュートラル」。日本は、これを、新たに策定した長期戦略の下、実現してまいります。2030年度に、温室効果ガスを、2013年度比で46パーセント削減することを目指し、さらに、50パーセントの高みに向け挑戦を続けていくことをお約束いたします。
議長、日本は、アジアを中心に、再エネを最大限導入しながら、クリーンエネルギーへの移行を推進し、脱炭素社会を創り上げます。
出典:COP26世界リーダーズ・サミット 岸田総理スピーチ(引用同上)
このあたりは、環境NGOの人たちも納得するところでしょう。「2050年カーボンニュートラル」は、世界各国と足並みをそろえた目標です。なお、「カーボンニュートラル」とは、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること。「実質ゼロ」というのは、排出量と、植物などによる吸収や人間による回収などによって空気中から取り除かれる量を同じにすることをいいます。
日本の「火力発電をゼロエミッション化」の何が問題なの?
さて、化石賞受賞の理由となったのは、岸田首相のスピーチのうち、「既存の火力発電をゼロエミッション化し、活用することも必要」のくだりでした。そのあたりをもう少し掘り下げてみましょう。
日本も含め、再生可能エネルギーによる電力の供給が不足している国で、環境負荷の少ない火力発電を活用するというのは、一見、現実的な取組みであるように思われます。
日本のいう火力発電の活用は、石炭などの化石燃料にアンモニアを混ぜて燃焼させることです。アンモニアは、燃焼して酸素と化合しても、二酸化炭素を排出しません。よって、アンモニアを混ぜた分、従来の火力発電より温室効果ガスの排出が少なくなるという理屈です。
しかし、アンモニアの生成には水素が必要であり、水素をつくる際には電気が必要です。その電気が再生エネルギー由来ならいいのですが、そもそも、火力発電を活用するのはなぜかというと、再生可能エネルギーによる発電が難しいからでして。当面、その電気は化石燃料由来のものになるでしょう。
とすれば、「何を言っているのだ日本は?火力発電所を使い続けたいだけでは?」と疑念を抱かれるのも無理はありません。なお、化石賞を主催するCANは、「脱炭素の発電としてアンモニアや水素を使うという夢を信じ込んでいる」「未熟でコストのかかるそうした技術が、化石燃料の採掘と関連していることを理解しなければならない」と、日本を批判しています。
日本の環境NGO「気候ネットワーク」も、方針説明書「水素・アンモニア発電の課題:化石燃料採掘を拡大させ、石炭・LNG火力を温存させる選択肢」で次のような問題点を指摘しています。
- 化石燃料からの水素・アンモニア製造時のCO2排出について、二酸化炭素回収利用貯留技術(CCUS)を通じた削減をすることが見込まれているが、CCUSが実用化されるまでは排出を伴い、実用化にも課題が多い。
- 2030年までに水素やアンモニアの2割程度の混焼が可能となった場合でも、残りの燃料として石炭やLNGを燃焼し続けることになり、大量のCO2排出が続く。2030年までに温室効果ガス排出を半減させることが求められていることに対してほとんど貢献せず、パリ協定の1.5℃目標には整合しない。
- 水素・アンモニア関連技術及びそれと組み合わせるCCUSは極めて高コストであり、脱炭素化が加速し、再生可能エネルギーのコストが低下する中で、価値が下がっていく。排出削減対策が備わっていないこれらの技術は座礁資産リスクがある。
【ポジションペーパー】「水素・アンモニア発電の課題:化石燃料採掘を拡大させ、石炭・LNG火力を温存させる選択肢」 | NGO 気候ネットワーク
ざっくり言うと、水素やアンモニアを化石燃料に混ぜて発電の際のCO2排出量を減らすとしても、CCUSが実用化するまでは排出量ゼロにはならない。しかもそれらの技術はコストが高い。さらに再エネのコストが下がれば、それらは価値のない資産となる、という話です。いやこれ、この指摘が正しければ、日本からの援助を受けるアジア諸国の皆さんにとっても迷惑ですね。
もし、「そんなことはないんですよ。アンモニアの混焼技術とCCUSを使った火力発電所は、コストの面でも温室効果ガスの排出という点でも、再エネよりお得なんです!」というのであれば、その点を国内外に向けて丁寧に説明する必要があるでしょう。でないと、日本は今後のCOPでも、化石賞を受賞し続けるということになってしまいそうです。