映画『遺体 明日への十日間』を観ました。
この映画は、ジャーナリストの石井光太さんのルポルタージュ『遺体-震災、津波の果てに』を原作として撮られた作品です。
原作は、東日本大震災時のある遺体安置所の関係者に取材をして書かれたもの。震災発生直後の惨状が、民生委員、市役所員、消防団員、医師、歯科医師、住職、葬儀社社長などの視点で淡々と描き出されます。
淡々と描かれているだけに、当時のみなさんの悲しみ、怒り、疲労、苛立ちがひしひしと伝わってくる。名著だと思いました。
なので、映画化と聞いて嬉しく思う反面、お涙ちょうだいものに仕上がっていたらやだなあと思ったのですが、DVDを見て、そんな心配は無用だったことが分かりました(いや、ちょっとだけいらない場面があったかもしれない。でも、全体の印象を左右するレベルじゃなかったです)。
主演の西田敏行さんは、原作の民生委員のおっちゃんのイメージそのままですし、遺体もわりと容赦なく描写されてますし。でも、実際はあんなに乾いた感じじゃなかったんだろうなあ…それを想像すると、当時の関係者の皆さんには、ほんと頭が下がります。
この映画は、登場人物が皆、ペラペラ喋らないところもよかったです。人間、これまで体験したことのないことに直面したときって、「えっあっ、いや…」などと言葉に詰まったり、意味無く「すみません」を連呼してたりするもんなので、リアリティがありました。
欲を言えば原作で詳細に描かれていた、葬儀社社長の奮闘をもっと盛り込んでほしかったなあと思います。大量のお棺の手配のくだりは見事だったので。
ただ、観終わった後は、死者の尊厳って何なんだろうなあということを考えました。
特に、あの震災のようにとてつもない規模の犠牲者が出た場合…もし自分が遺体になってしまったら、回収と何らかの措置など最低限の手間だけおかけして、貴重な人材と資源は、可能な限り復興に回してもらいたいものだと思った次第です。