はやいもので2023年も9月に入りました。ここ最近、ツイッターで「他人事」という言葉がやたら目につくので取り上げることにします。
「他人事」は、「自分には関係ないこと」という意味をもつ言葉です。
さて、誰がどんなことについて、「自分には関係ない」と知らぬふりを決め込んでいるのでしょう。ここ最近の皆さんの「他人事(ひとごと)」を、厳選してお届けします!
「他人事」の読み方は「ひとごと」か「たにんごと」か
その前に。「他人事」の本来の読み方は「ひとごと」です。「たにんごと」ではありません。
「ひとごと」のもともとの表記は「人事」だったそうですが、「人事権」「人事課」の「じんじ」とまぎらわしいため、「他人事」と書く流れが生まれたのだとか。「たにんごと」はその誤読だと言われています。
NHK放送文化研究所のQ&Aによると、国内主要メディアは「他人事」を採用していないようです。
国内の主な新聞社や通信社も、「ひとごと」または「人ごと」の表記(表現)を認めているだけで、「たにんごと」「他人事」については認めていません。
「ひとごと(人事)」と「たにんごと(他人事)」 | ことば(放送用語) - 放送現場の疑問・視聴者の疑問 | NHK放送文化研究所Q:「他人」に「事」と書く「他人事」について、「ひとごと」と「たにんごと」という二とおりの読み方・言い方を耳にします。放送での読み方などは、どうなっているのでしょうか。A:まず、「他人事」「たにんごと」という表記(書き方)と言い方・読み方は、どちらも放送では原則として用いないことにしています。「自分に関係ないこと」など...
上記は2005年の記事で、かなり古いのですが、現在も主な新聞や放送局のオリジナルの記事に、「他人事」という表記はほぼ見られません。
辞書も「他人事」を全面的に採用しているわけではなさそうです。
例えば、手元にある三省堂「新明解国語辞典」(第八版)を見ると、見出し語「ひとごと」の表記は【〔他人〕事・人事】となっていました。
ただ、Web辞書の「大辞泉」は、「本来は「ひとごと」と読んだ語」と補説を入れつつ、見出し語「たにん‐ごと【他人事】」を収録しています。そのうち、一般的に「たにんごと」が受け入れられる日がくるかもしれません。
2023年の「他人事」いろいろ
とまあそのような扱いの言葉なので、「他人事」が使われるのはもっぱら雑誌のWeb版やツイッター(現X)です。
例えば、木原官房副長官のご家族の疑惑について、松野官房長官が「他人事」のようだと文春が書いています。
▶警視庁幹部“三者会談”がお粗末すぎる
▶事件性アリの証拠 廊下の血痕に警視庁の噴飯釈明
▶木原副長官辞意示唆も岸田首相「俺が良ければ」
▶松野官房長官は他人事「もう文春はやらないらしい」 https://t.co/0Th6rt7t8r— 週刊文春 (@shukan_bunshun) August 23, 2023
日刊ゲンダイは、“「大阪の責任ではない」の他人事感”として、維新の馬場代表を批判。
万博の成功に向け、党を挙げて「全力で取り組んでいく」ことを国会で誓いながら、今さら他人事のように「国の行事」「国のイベント」「大阪に責任はない」と言い放つのだから、ネット上で怒りの声が出るのも無理はない。
維新・馬場代表「大阪の責任ではない」の他人事感 国会で万博誘致を求めたのをお忘れ?|日刊ゲンダイDIGITAL(2023/08/31)
2025年大阪・関西万博めぐり、日本維新の会の馬場代表の「大阪の責任とかそういうことではない」発言が炎上。国会で万博誘致を迫ったのは誰ですか?ネットでは 《うまくいけば自分の手柄、うまくいかないと他人の責任。維新の体質だね》の辛辣批判も。 https://t.co/UKfFQZXacY #日刊ゲンダイDIGITAL
— 日刊ゲンダイDIGITAL (@nikkan_gendai) August 31, 2023
「いや、あんた当事者だろう!」と突っ込みたいときに重宝する言葉のようですね。
そして女性自身は「「国民生活は他人事」岸田首相 “2030年代半ばに時給1500円”宣言に広がる絶望「遅すぎる」」という記事で、政府の賃上げ方針を批判。
8月31日、「新しい資本主義実現会議」で最低賃金の引き上げを表明した岸田首相。2030年代半ばまでに時給1500円にすることを新たな目標とするという。各メディアが報じた。
「国民生活は他人事」岸田首相 “2030年代半ばに時給1500円”宣言に広がる絶望「遅すぎる」|女性自身(2023/08/31)
【「国民生活は他人事」岸田首相 “2030年代半ばに時給1500円”宣言に広がる絶望「遅すぎる」】https://t.co/ZiMxLcK1Jj
今後も継続的に物価が上昇するとなれば、10年後の1500円の価値は今よりも大幅に下がってしまうだろう。そんななか……#岸田文雄 #賃上げ #時給 #女性自身[@jisinjp]
— 女性自身【公式・光文社】 (@jisinjp) August 31, 2023
「国民生活は他人事」と言ったのはあるツイッターの投稿者なので、このタイトルはミスリードかなあと思います。
ただ、2030年代半ばはあまりに遠い。乗り気ではない、喫緊の課題ととらえていない、やる気がない、すなわち他人事だと表明したようなものだ、と言いたい気持ちはわかります。
大手新聞が「他人事」と批判されるとき
一方、大手メディアの名前とセットで「他人事」が語られるのは、だいたいそのメディアの立ち位置が批判されるときですね。
例えば大手新聞が、
- ジャニーズ事務所の問題でこれまでだんまりを決め込んでいたのに、急に事件を報じるようになった
- 福島第一原発のいわゆる「処理水」について懸念を示していた新聞が、中国による日本の海産物禁輸を批判した
などという動きを示したときに、
「なに他人事みたいに言ってるんだ、お前らも加害者みたいなもんだろう」
という批判を浴びがちです。例えば、ツイッターでは毎日新聞のこの記事が「他人事か」と引用リツイートされているのを見かけました。
「他人事ではない」という使い方
というところで以上、他人を糾弾する場合の「他人事」の使い方をご紹介してきましたが、最後にひとつ、「他人事ではない」という使い方を。
「そごう・西武労組のストライキを支持する」日本労働弁護団幹事長の談話より。国会議員の山添拓さんがツイッターで取り上げていました。
労働弁護団がそごう・西武労組のストライキを支持する幹事長談話を発表。
「私たちの生活が多くの労働者の勤労に支えられていることに照らせば、労働者の労働条件の低下や地位の不安定化は、けっして他人事ではない」#そごう・西武労組のストライキに連帯しますhttps://t.co/Olrfe1r8p5
— 山添 拓 (@pioneertaku84) August 31, 2023
今回のデパートのストについては労働者側を批判する向きもあるようです。
解せないのは、批判している人たちの中にも労働者(と言って気に入らなければ会社員、パート、バイト、勤め人、給与生活者)がいるであろうことなんですよね。
よそのストライキを「他人事」のようにとらえていると、それこそ2030年になっても給料がほとんど上がっていない、なんてことになりそうですが「まあそんなもんよ」と達観しているのでしょうか。わからないことは多いです。