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原発が「グリーン」って本当?EUタクソノミーとは何か

EUタクソノミーとは ESG
この記事は約6分で読めます。

2022年の正月早々、「EUが原子力を“グリーン”と認める」というようなュースが報じられ、日本でも「やっぱり原子力は必要だよね」「原子力のどこが環境にやさしいの?」などさまざまな声が上がっています。

このニュース、正確には、天然ガスと原子力を条件付きで「グリーン投資」のリストに載せようよ、という案を欧州委員会が提案した」という話です。

[1日 ロイター] – 欧州連合(EU)欧州委員会は、一部天然ガスと原子力エネルギーを「グリーン投資」に区分する提案をまとめた。1月にEUの「サステナブル・ファイナンス・タクソノミー」に関するルールを提案する見通しだ。
出典:天然ガスと原子力を条件付きで「グリーン投資」、欧州委が素案 | ロイター

EUは今後、原子力をどうするというのでしょうか。このページでは、わかったようでわからない「欧州委員会」から、耳慣れない「EUタクソノミー」なる用語まで、なるべくざっくりと、わかりやすく説明してみたいと思います。

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今さら聞けない!「欧州委員会」と「欧州連合」の違い

まず、「欧州委員会」は、EC(欧州連合)の主要機関のひとつ。EUにおける政府や内閣にあたります。「欧州全体の利益を代表し、追求する」ことがその使命です。英語表記では「European Commission」。略称は「EC」です。

EUの主要機関には、ほかに「欧州議会」「欧州理事会」「EU理事会」がありますが、EU全体の新しいルールや方向性を定め、提案する権限を持っているのは欧州委員会です。欧州委員会の提案は、EU理事会と欧州議会で議論され、修正されたり採決されたり否決されたりします。

参考:EU MAG 欧州委員会について教えて下さい

EUが原発をグリーンにうんぬんのニュースは、この欧州委員会が、2021年12月末に、一部の原子力を含めた「グリーン投資」のリストを作って各国に提案したという話。今の段階では、「EUが原子力は環境にやさしいと認めた!」という話ではありません。原発反対派の人も推進派の人も落ち着きましょう。

原子力のEUタクソノミー入りに賛成の国・反対の国(地図あり)

原発のEUタクソノミー入りにかねて賛成していたのは、フランス、ポーランド、ブルガリア、クロアチア、チェコ、フィンランド、ハンガリー、ルーマニア、スロバキア、スロベニアの10か国。原子力が発電量の多くを占めている国や、これから原発を建設したい国です。

一方で2022年じゅうに国内のすべての原発を廃止するドイツは、原発のタクソノミー入り反対しています。ドイツは2021年秋、オーストリア、デンマーク、スペイン、ルクセンブルクと共に原発のタクソノミー入りに反対する声明を出していましたが、1月3日、欧州委員会の提案に対して、あらためて拒否の意を示しました。

2021年10月時点の勢力図です。「BALKAN GREEN NEWS」の2021年10月13日の記事Ten member states urge EU to mark nuclear power as low-carbon energyを参考に作成しました。赤紫が原発をEUタクソノミーに入れたい派、緑は反対派です。
原子力のEUタクソノミー入りに賛成する国と反対する国
白地図ぬりぬりさんの「ヨーロッパ」の白地図を利用して作成しました

濃いグレーは、これまで私が読んだ関連記事からは賛成・反対が明らかではないEU諸国です(地図ではキプロスが表示されていませんがご了承ください)。さて、これらの国はどう動くのでしょうか。

EUタクソノミーとは?

ここで、EUタクソノミーについてもう少し詳しく説明します。「EUタクソノミー」とは、どんな経済活動が「グリーン」なのかを判断し、リストをつくるためのEUの認証システムです。2020年6月に決定され、その年の12月に施行されました。

この場合の「グリーン」とは、「環境に配慮した」「脱炭素につながる」「持続可能な」などの意味です。脱炭素社会をめざすEUは、グリーンなプロジェクトにできるだけ多くのお金を呼び込みたいと思っています。

しかし、どんな活動が環境に配慮したものなのか、持続可能なのかは、投資する側からは分かりにくかったりします。放っておくと、 グリーンウォッシング のプロジェクトや企業に投資してしまい、せっかくのお金が無駄になるかもしれません。

そこで、「何が環境に配慮した経済活動なのか」を明らかにするために導入されたのが、EUタクソノミーです。

EUタクソノミーは、6つの「環境目標」と4つのスクリーニング基準を設けて、「グリーン投資」にあてはまるかどうかをチェックしています。

EUタクソノミーの6つの環境目標

「環境」と聞いてぱっと思い浮かぶような項目が列挙されています。なお、1、2は2022年1月適用開始、残りは2023年1月適用開始の見通しとのこと。

  1. 気候変動の緩和
  2. 気候変動への適応
  3. 水と海洋資源の持続的な利用と保護
  4. サーキュラーエコノミー(循環経済)への移行
  5. 汚染の防止と管理
  6. 生物多様性と生態系の保護と回復

EUタクソノミーの4つのスクリーニング基準

4つのスクリーニング基準とは、ざっくり説明しますと次の通りです。4つすべてをクリアすると、「タクソノミー的確」となり、グリーン投資の対象としてEUからお墨付きをもらった、ということになります。

  1. 6つの環境目標のうち1つ以上にあてはまるか
  2. 他の環境目標に害を与えないか(DNSH基準)
  3. 人や労働者の保護のための国際的な規範にのっとっているか(ミニマムセーフガード基準)
  4. 単位あたりのCO2排出量などの数値が基準をクリアするか(テクニカルスクリーニング基準)

ただ、スクリーニング以前に、セクター(業界)によって選別が行われているあたりが、なんとも分かりにくいところですね。例えば、石炭火力発電なんかは今のところ門前払いの状態です。一方でガス火力発電や原子力発電は「見送り」。

ちなみにガス火力発電も今回、CO2排出量が1kWhあたりの270g未満という条件つきでEUタクソノミー入りが提案されています。それがありなら、低炭素になるように改良した石炭火力もありなんでは?と思うのですが、無理なんでしょうか。

「持続可能な経済活動」に該当するセクターを例示すると以下の通りです。
石炭火力発電が条件に関わらず非該当となった一方、ガス火力発電や原子力発電、ガラス、紙・パルプ、アパレル、海運、空運等はライフサイクルアセスメントが困難、若しくは結論が出ていない等の理由から今回は見送りとなりました。
これらのセクターの適否は引き続き議論が継続される他、該当セクターや該当条件についても随時見直される予定となっています。
参考:EUタクソノミーと持続可能性に関する情報開示(PDF)|三井住友銀行

原子力をEUタクソノミーに入れるのは適切か?

ということで、以上、「EUが原子力を環境配慮だって言ってる!」と受け止められたニュースは、欧州委員会が、「前から言ってた原子力だけど、やっぱりEUタクソノミーに組み込んではどう?」という案を出した、という話です。今後は、EU加盟各国の意向を聞いて、正式な提案となります。

私がこの記事を書くにあたって感じたことは、原子力は確かに発電時にCO2を出しませんが、放射性廃棄物の処理や事故のことを考えると、スクリーニング基準2の「他の環境目標に害を与えないか」をクリアする原発なんかあるの?ということです。

もちろん、タクソノミー入りを機に原子力への投資意欲が高まり、技術が向上した結果、わが国の原発の安全性も大幅に向上!なんてことになれば歓迎なのですが。さて、欧州委員会の提案は受け入れられるのでしょうか?

参考にした記事:
原発は「低炭素への移行を加速」 欧州委が位置づけ方針発表|朝日新聞デジタル
「原発は”グリーン”か EUの判断は」(ここに注目!) | NHK 解説委員室
EU taxonomy for sustainable activities | European Commission

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