このページでは、分かったようで分からない「採択」と「発効」の違いについて説明します。
このお題を取り上げることにしたきっかけは、2017年8月16日に「水銀に関する水俣条約」が発効したというニュースがよく分からなかったことです。
一つは、水俣に対する日本の姿勢。
水俣病のような、水銀による深刻な健康被害が再び繰り返されることがないよう、国際的な水銀対策のリーダーシップを発揮していくというのは結構です。
しかし、水俣湾の一部には、水銀が含まれた汚泥が未だに眠っているという話でして。まずは自分の足元をなんとかしないといけないのでは…という疑問です。
【条約発効 水俣に眠る負の遺産】「水俣条約」が発効したが、熊本県水俣市にはかつて垂れ流された水銀が今も埋められたまま。この先も適切に管理し続けられるのか、地元の懸念は根強い。 https://t.co/sH5D48N9qA
— Yahoo!ニュース 速報や地震情報も (@YahooNewsTopics) 2017年8月16日
それはさておき、もう一つは、水俣条約って、2013年に熊本で開催された国際会議で決まったんじゃなかったっけ?という疑問。
調べてみたところ、2013年10月に、熊本県の熊本市や水俣市で開催された、国連環境計画(UNEP)の外交会議で採択されたとありました。
ここで、ああそうか、あれは「採択」で今回のニュースは「発効」だったのか、と気が付いたわけですが、よくよく考えてみると「採択」と「発効」の違いって何だ?となったわけです。
この二つの言葉の区別がついていないと、水俣条約に限らず、さまざまな国際条約を理解するときに何かと不便そうなので、この機会に整理しておくことにします。
採択と発効の違いって?
まず、条約の「発効」というのは、国際法として効力を持つようになるということです。例えば、水俣条約の場合、水銀や水銀を含む製品の輸出入が禁止されたり規制されたりします。
他方、条約の「採択」とは何かというと、国際会議などで、各国の代表者が条約の文書について話し合い、皆の合意を得たら、それをその会議の全体意見として表明することです。
例えば水俣条約の場合、国連が2009年あたりから水銀汚染の調査を始めて、水銀リスク削減のための条約を作ったらどうかな?という話になりました。
その後、国連の委員会で条文案が作られ、「水銀に関する水俣条約」という条約名が決まったのが2013年1月。で、同じ年の10月、熊本の国際会議でこの条約についての話し合いが行われ、各国の代表者のみんなが「いいんじゃないかな」と合意をしました。これが水俣条約における「採択」です。
つまり、あらかじめ形ができている条約について国際会議で話し合いをして、みんなが賛成することを採択といいます。
採択の時点では効力は発生しません。いちど国に持ち帰り、「わが国はこの条約を締結してもいいですか?」と議会に聞いて承認を得なければいけません。場合によっては、その条約の内容に対応するために新しい法律を作ったり、すでにある法律を改正したりすることも必要となります。
ある国が、議会の承認を得て条約締結の意思表示をすることを、条約の「批准(ひじゅん)」と言います。
ここで、また紛らわしい感じの言葉が出てきてしまいました。いい機会なので、「批准」と「発効」の違いについても確認してみましょう。
批准と発効の違いとは?
条約は通常、批准をする国、すなわち「うちはこの条約を締結します!」という国がいくつか集まって発効するように決められています。例えば、水俣条約の場合は、「50か国が締結してから90日後に発効」と決められていました。
すなわち、批准は発効の条件なのです。
というところで、最後に「採択」「発効」「批准」の違いを、ざっくりまとめてみましょう。
採択…国連でまとめられた条約について、各国の代表者が国際会議で話し合い、「これはいい条約なのでみんな採用しよう」とすること。
批准…条約の採択後、参加国がそれぞれ自分の国の議会の承認を得て、条約締結の意思表示をすること。
発効…条約を批准した国が一定の数以上にのぼり、国際法として効力を持つようになること。
「採択」「発効」「批准」の意味が分かっていると、ニュースを見ていて「あれ、この前と同じ話をしている?」なんてこともなくなります。ぜひともこの機会に違いを押さえておいてください。
このページの参考資料と補足
参考資料:
環境省_水銀に関する水俣条約の概要
改訂6版 環境社会検定試験eco検定公式テキスト
補足:
なお、条約については、「署名」という段階もあります。ここでは割愛しましたが、eco検定公式テキスト(第6版)の欄外に、さらりと分かりやすい説明が書かれていたので、引用させていただきます。
条約の署名・批准・発効
条約は国際会議などで交渉された後、国際法として効力を持つまでにいくつかの段階がある。国連会議などで交渉の結果合意された文書は会議の最後に採択される。会議の後に、その条約の趣旨に同意する国は署名を行い、その後、国に持ち帰り、議会での承認を経たことを通知することを批准と呼ぶ。また、通常、条約は批准する国が一定程度集まってから発効するように決められる場合が多い。
(改訂6版 環境社会検定試験eco検定公式テキスト 61ページより引用)