佐野研二郎氏が、代理人を通じて、適切な報道が行われなければ法的措置を講じるとの旨の文書をマスコミ等に送付し、また佐野氏の代理人が「会見の予定はありません」と語ったと東スポが9月6日に報道するも、一部のネット民以外は静観している模様。
また、更なる「パクり」を探そうとする営みは、終息したようで。佐野氏の作品に飽き足らず、多摩美大生の卒業制作まで探って、パロディ作品を盗作呼ばわりしたのがさすがに痛かったか。
さて、一連のエンブレム騒動を執拗に観察してきて、個人的に収穫だったと思うのは、これまでよく知らなかったデザイナーさんやデザイン事務所に対する、興味がわいてきたことだ。
例えば、Facebookで佐野氏を擁護するエントリーを立てて、一時期「Theater Products」のロゴがパクリwwwと誤爆されてた植原亮輔氏と、そのパートナーである渡邊良重氏の「KIGI」とか、KIGIの二人がかつて所属していた「DRAFT(ドラフト)」とか。
手始めに、ドラフト代表の宮田識(さとる)氏のインタビューを中心に構成された『デザインするな』(著・藤崎圭一郎)を読んでみた。出版は2009年。
以前から、最寄の図書館で見かけることがあり、パラパラめくってみたことはあったが、どうしても借りる気がしなかった本だ。理由はタイトル。
だって、キリン「淡麗」「一番搾り」「世界のキッチン」や、モスバーガーなど優れた広告を手がけてきた事務所の代表が「デザインするな」って。あ、なんか難しいこと言ってる、凡人で悪かったな、って気分になっちゃったんですね、当時は。
しかし、クリエイティブ方面に対してそういったひねくれた態度をとっているようでは、無闇に佐野氏を叩いている連中と同じではないか?ということで、今回、偏見なしで向き合ってみることにした。
そしたら、宮田氏は全くもってスカした人物などではないことが判明。むしろ、効果的な広告のために努力を惜しまない、どちらかと言えば泥臭い人物であるという印象を受けた。
やるべきではないと感じたことが行われようとしているときには、部下はおろか顧客も怒鳴りつけるし、ブランド維持のために必要とあらば、クライアント企業の人事に口を出すことも。
スタッフはそんな所長を恐れたり迷惑がったりしながらも、その手腕に感心し、人を育てる人として評価しているようである。
なお、「デザインするな」は、宮田氏の口ぐせで、スタッフは、「チマチマしたデザインをするな」「森を見ろ」というような意味だと解しているらしい。
宮田氏本人によると、『デザインするな』というのは、これからデザインのスキルを身につける人ではなく、基本的なスキルが備わっているデザイナーに向けた言葉で、
技術があると、技術だけで形をつくろうとしてしまう。しかし大切なのは、伝えるべきイメージを頭の中で思い描くこと。イメージが決まれば、スキルはすでにあるのだから、あとは手が勝手に動いてくれる。頭の中のイメージを整理すれば、形はいくらでもきれいになる
とのこと。うーん、「デザインするな」の一言でそれは伝わらんよ…でも、この人の下で育った人は、ありものの画像をパクってきて貼り付けるだけの簡単なお仕事はしないんだろうな、と思った。あと、仮に何かあったとしても、この人は「部下のやったこと」だと知らんふりを決め込んだりもしないだろうな、とも。