通勤電車の中では、本を読むことにしています。本はなるべく買わずに、図書館で借りられるものは借りるのが鉄則。しかし、最寄りの図書館にふらっと行っても、目当ての本や面白そうな本があるとは限りません。というか、そんな幸運は滅多にないといっていいでしょう。
なので、あらかじめ図書館のWebで検索して、分室を含めた市の図書館全体からお目当ての本を探して予約しておき、最寄りの図書館に取り置いてもらうという方法をとっています。
しかし、カラーコーディネーター1級試験の2か月前あたりからすっかり読書から遠ざかり、図書館で予約をするという習慣も忘れていたところ、先日、試験も終わって落ち着いたというのに、ついに車内で読むものがないという事態に。あわてて、最寄りの図書館に行って、デザイン関連の書棚から何冊か適当に借りてきました。
そのうちの一冊が、この新書『デザインの教科書』です。結論からいうと、これが当たり。デザイナーや芸術家の視点からだけではなく、使い手から見たデザインをテーマにした本で、「貧困解決とデザイン」「生きのびるためのデザイン」といった、これまでに読んだデザイン関連書籍にはなかった視点でデザインが語られているたいへん興味深い本でした。
例えば、「貧困解決とデザイン」という節では、2007年にニューヨークのクーパー・ヒューイット国立デザインミュージアムで開催された展覧会『残り90%の人たちのためのデザイン』が紹介されています。
「残り90%の人たち」とは何かというと、デザイナーによるデザインの恩恵を受けられない人たちを指しています。同展覧会のカタログによると、先進国のデザイナーのほとんどは、世界の10%の裕福な顧客のためだけにデザインをしている計算となるそうで。
その点、同展覧会では、残り90%の人たち(貧困層や被災者、発展途上国の人々など)へのデザイン提案が行われました。
例えば、「Qドラム」という水の運搬道具。
アフリカの、住宅に水道が完備されていない地域のために開発されたポリタンクです。普通のポリタンクだと、手に提げたり担いだりしなくてはならないので運搬が大変ですが、Qドラムはタイヤのような形をしているので、転がして運ぶことができます。
これはほんの一例で、『デザインの教科書』には、他にも生活の問題を解決するデザインの試みが紹介されています。
しばらく商品色彩の勉強をしていて、デザインといえば「売れるかどうか」を第一に考える習性が身についていた私は、かなり衝撃を受けました。「使う人の生活がよりよくなるか」という視点が完全に欠落してましたね。
近代デザインの歩みや、デザインを決める要素(色彩の話も出てきます)についても分かりやすく解説がなされているという側面もありますし、図書館に返却後は、買って手元に置いておきたい1冊だと思いました。