英国のロックバンド「コールドプレイ」が、新作アルバム『ミュージック・オブ・ザ・スフィアーズ』の世界ツアーを、環境に配慮する形で行うことを発表しました。同バンドは、2019年に「持続可能なだけでなく、積極的に有益な方法が見つかるまでツアーはしない」との方針を表明していたのですが、彼らなりのやり方を見つけたようです。
コールドプレイは環境面での持続可能性に配慮した2022年のワールド・ツアーの詳細を発表している。
2019年の時点でコールドプレイは可能な限り環境面でやさしいものにするために、ツアーの行い方を考える時間をとりたいと考えていることを明かしていた。
今月、コールドプレイはワシントン州シアトルにオープンする世界初のゼロ・カーボン・アリーナであるクライメイト・プレッジ・アリーナでライヴを行う初のアーティストとなっている。
(出典:コールドプレイ、環境面に配慮した2022年のワールド・ツアーの詳細を発表(2021.10.15)|NME JAPAN )
BBCの報道では、取組みのひとつである「キネティック・フローリング(kinetic flooring)」が、冒頭で大きく取り上げられました。
これは、会場のフロアに床発電のパネルを敷き、観客がジャンプしたり踊ったりすると発電するというもの。彼らが「カーボンフットプリント(carbon footprint)」を削減するための12のプランの一部だそうです。
Coldplay’s next tour will partly be powered by a dancefloor that generates electricity when fans jump up and down, and pedal power at the venues.
It’s part of a 12-point plan to cut their carbon footprint, two years after the band pledged not to tour until they could do so in a more sustainable way.
Singer Chris Martin told the BBC in his first interview about the plans that fans will be on “kinetic flooring“.
“When they move, they power the concert,” he said.
(参考:Coldplay: Band ready for backlash over eco-friendly world tour(2021.10.15)|BBC
「カーボンフットプリント」とは、ざっくり言うと、商品やサービスのライフサイクル全体で発生する温室効果ガスの量を、CO2換算で表示する制度のことです。
彼らがコンサートツアーのどこからどこまでを「ライフサイクル全体」と捉えているかどうかは把握していませんが、少なくともメンバーやスタッフの移動、機材の運搬、コンサート会場におけるエネルギー消費、来場するファンの移動などが対象となっている模様。
それらの営みから排出されるCO2を可能な限り少なくしようというのが、コールドプレイの計画であるようです。
例えば、メンバーやスタッフの移動ですが、彼らの公式サイトによると、メンバーやスタッフは、可能な限り陸路で移動し、避けられない場合は商用フライトを使用、しかしそれも無理な場合に限ってチャーター機を使うとあります。
空路となる場合は、燃料サーチャージを支払うか、廃油などから作られたSAF(Sustainable Aviation Fuel、持続可能な燃料)を使うとのこと。
また、コンサート会場では、上述の床発電パネルの他に、太陽光発電パネルも設営されます。
ファンの移動については、専用のアプリで最もCO2排出量の少ない会場までのルートを示し、協力してくれた人には会場で使える割引コードが付与されるなどの取り組みがなされるとか。
そして、植林によるオフセット(相殺)もあります。チケット1枚が売れるごとに、1本を植林。前回のツアーの実績からすると、540万本の植林が植林されるということになるそうです。
さて、コールドプレイの環境配慮ツアーの取り組みを知って、「あらいいじゃない」と賛同する人も、「なんか胡散くさいな」と疑念を抱いた人もいるかと思います。
BBCは懐疑的な見方をしているようですね。上で引用した記事の最後に「コールドプレイのサステナビリティ計画には根拠があるか?」という見出しがあり、疑問点が指摘されています。以下、上記BBCの記事の「Does Coldplay’s sustainability plan check out?」の概要です(要約と和訳は筆者)。
- キネティックエナジーについて:床発電は2013年のパリマラソンで使用されたが、4万人が走って7kWhの発電量だった。これはコールドプレイの標準的なライヴで消費される電力量の2-3%にすぎない。
- 空路での移動について:バンドは持続可能な航空燃料を使用する機体しか使わない。この燃料は廃油を原料とし、CO2排出量は60%少ないという。しかし欧州内のツアーでチャーター機を使う場合、排出量をユーロスターを使う場合の17倍の排出量となる。
- オフセットについて:植林のようなカーボンオフセットは、裕福な国や人々が排出量カットのために必要な手段を回避する方法だと、いくつかの環境グループから批判されている。
ということなのですが、コールドプレイ側は、まだ自分たちは完璧ではないし批判は受け入れる用意があると言っているので、あまり意地悪な見方をしなくてもいいのではないかと思いますがね。彼らの営みが逆にCO2を増やすことになるという場合は別ですが。
いやしかし、環境に悪いものの筆頭みたいなロックコンサートでCO2の収支が語られる時代になるとは思いませんでした。コロナの前まではかれこれ30年ぐらい年に何本かはコンサートに行っていた者として、彼らのツアーの成功を祈りつつ、レポートを楽しみにしていようと思う次第です。