「電力広域的運営推進機関」略して「広域機関」。全国の電力の需要と供給の取りまとめをしている中立的な組織ですが、その役目のひとつに「容量市場」の運営があります。
電力の組織が運営している「市場」ですから、電気の何かを売り買いするところだということは想像できますが、さて「容量」とは何でしょうね?
このページでは、経済のニュースで見かけるようになった「容量市場」とは何かを、わかりやすい言葉でなるべくシンプルに説明します。「今後、日本は電力が不足するんじゃないか?」なんて話題になったときに登場する用語ですので、ぜひとも押さえておいてください。それでは行ってみましょう!
容量市場とは?
容量市場とは、広域機関が2020年に開設した電力の取引市場です。ここで取引されるのは「4年後の電力の供給力」。
「電源」を持っている事業者さんたちと広域機関が、
「4年後に何キロワットを提供できるように準備しておきます。代金は1キロワットあたり何円です」
という約束を、かわす場だと考えていいかと思います。
ここで「電源」というのは、発電所など電気を供給するための設備やしくみのことだと考えてください。
「容量」とは、キロワット(kW)であらわされる電力の供給力です。キロワットの価格は、オークション方式で決まります。買い手は広域機関。広域機関は、買ったキロワットを小売電気事業者に売ります。
ところで、なぜ4年も先の、それも「供給力」なんていうよく分からないものに値段をつけるのでしょう?
それは、電力を供給する設備やしくみを整えるには時間とお金がかかるからです。
例えば、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの発電所が、悪天候のためにあまり電気を作れなかったとしましょう。
そのとき、「あっ電気が足りないや。じゃあ火力発電所でも動かすか」としたいところですが、そのときに火力発電所がボロボロになっていたり、すでに廃止になっていたりしたら? 電力の不足分をカバーできませんよね。
そんなの、火力を持ってる大手電力会社にメンテナンスさせておけばいいじゃないか、と思う人もいるかもしれません。しかし、大手だってボランティアでやってるわけではないのです。
まして火力発電所は脱炭素の流れの中ですっかり悪者です。いずれはゼロにしなければ!なんてことも言われています。将来的に使えなくなるかもしれない設備に投資をするような奇特な人はいないでしょう。
そこで国は、4年後の収入を保証することで、事業者のみなさんに安心して設備投資をしてもらい、安定した供給力をキープしてもらうことにしました。これが容量市場の目的です。
4年後に約束を守れなかったらどうなるの?
容量市場のオークションで4年後に電力を供給する権利を手に入れた人たち、すなわち落札をした事業者さんが、4年後に「やっぱり電力の供給はできません」ということになったらどうなるのか。ペナルティを受けることになります。
落札をした事業者さんは、広域機関と「容量確保契約」を結びます。この契約には、従うべき要求「リクワイアメント」と、リクワイアメントが達成できない場合の金銭的なペナルティがくっついています。
リクワイアメントには、ざっくり言いますと次のようなものがあります。
- 年間で一定時期や一定時間以上、稼働可能な計画としていること
- 計画外停止しないこと
- 需給ひっ迫のおそれがあるときに、小売電気事業者との契約や一般送配電事業者の指示により電気を供給したり、「卸電力市場」「需給調整市場」に応札すること(稼働可能な計画の電源につき)
未達成の場合は、経済的ペナルティとして、広域機関が事業者さんたちへ支払う金額(「容量確保契約金額」といいます)が減額されます。
経済的ペナルティの上限は、年額の110%です。100%を超えるペナルティが課された場合、事業者さんたちは逆にお金を支払うことになります。
参考資料:
「容量市場の概要について」2019年3月1日 電力広域的運営推進機関(PDF)
市村拓斗「電気事業のいま Overview2021」日本電気協会新聞部
2021年12月22日に公表された容量市場のオークションの結果
最後に、ご参考までに、2021年12月22日に公表された入札の結果(「約定価格」といいます)を紹介します。広域機関が公式サイトで公開している資料を見てみましょう。
2021年度 容量市場メインオークション(対象実需給年度:2025年度)は、以下の結果となった。
◆約定総容量 :1億6,534万kW(165,342,148kW)
◆エリアプライス
北海道エリア :5,242 円/kW
北海道・九州エリア以外 :3,495 円/kW
九州エリア :5,242 円/kW
◆経過措置を踏まえた約定総額 :5,140億円(514,010,582,305円)
出典:容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度:2025年度)2021年12月22日|電力広域的運営推進機関(◆は、読みやすいように筆者が補ったもの)
その前年の2020年度に行われたメインオークションの結果は、全エリアで14,137円/kWでした。これには「高い!」という批判があり、価格の決め方を見直した結果、2021年度は3分の1から4分の1ぐらいの価格に落ち着くことになりました。
まとめ
まだ始まったばかりの容量市場。
「カーボンニュートラルをめざしているのに火力発電所を援助するような制度はいかがなものか」「そんな金額で発電所は維持できないよ!」などなどの批判があり、今後もルールや計算方法が変わっていく可能性があります。今後の動向を見守っていきたいところです。
なお、容量市場については運営元の広域機関が「かいせつ容量市場スペシャルサイト」というわかりやすいコンテンツを設けてくれています。この記事を読んで容量市場のことを詳しく知りたくなった方は、ぜひ読んでみてください。
かいせつ容量市場スペシャルサイト|電力広域的運営推進機関ホームページ