今日のお題は「ベースロード市場」。数ある電力市場のひとつです。
これまでこのブログでは「容量市場」「需給調整市場」「非化石価値取引市場」を取り上げてきました。おさらいしますと、それぞれの市場で取引されるものは
- 容量市場……4年先の電力の供給力
- 受給調整市場……直前になって電力が足りないことが分かったときの調整力
- 非化石価値取引市場……二酸化炭素を発生しない方法で作っことによる電力の付加価値
でした。
さて、ベースロード市場とは何を取引するところなのでしょうか?このページでは、「そもそもベースロードとは?」というところから、ベースロード取引市場の概要や最新の価格まで、いま注目のインフォグラフィックでわかりやすくご説明します!
ベースロード市場とは?
ベースロード市場とは、卸電力取引所に開設される市場のひとつで、「ベースロード電源」を取引する市場です。
ベースロード電源とは、季節や時間帯、天候を問わず、一定量の電力を安定して低コストで供給できる電源のこと。
なお、この場合の「電源」は、電力の供給源という意味です。
日本のエネルギー政策では、電源を「ベースロード」「ミドル」「ピーク」に分けて考えます。ベースロード電源には、低コストで常に安定して動かしておくことのできる原子力、石炭火力、一般水力、地熱による発電があてはまるとされています。
このベースロード電源を取引するところがベースロード市場です。
運営は日本卸電力取引所(JPEX)。売り手は大手発電事業者と電源開発(J-POWER)、買い手は「新電力」と呼ばれる小売電力事業者です。2019年度にスタートしました。
ベースロード市場が開設された背景
ベースロード市場が開設された背景には、新電力が安いベースロード電源にアクセスしにくいという事情があありました。
ベースロード電源に分類される原子力発電、石炭火力、一般水力、地熱の発電設備従来の大手電力会社が開発されてきました。
そしてそこで作られる電力は大手電力自身の手によって売られてきました。
問題は、この体制が2016年に電力小売が全面自由化され、大手電力会社から小売部門が独立した後も続いてしまったことです。
新しく電力小売に参入してきた新電力さんたちは、ややコストが高い電源を「スポット市場」というところで調達するか、今のところ安定性に問題があるとされる再生可能エネルギーを中心に電力を調達するしかありません。
これでは新電力さんたちは旧大手の小売りさんたちと価格競争をすることができませんよね。そもそも電力小売が自由化されたのは、小売事業者間で競争をさせ、電力の価格を下げるという目的がありました。それなのに、これでは何のための自由化か、ということになってしまったわけです。
そこで国は、2019年にベースロード市場を開設し、大手発電事業者の持つベースロード電源による電力のうちいくらかを市場で売らせることにしました。
これがベースロード市場が開設された背景です。
なお、大手発電事業者が特定の小売事業者を優遇していないかどうかは、「電力・ガス取引監視等委員会」というところが監視しています。
どうなる?ベースロード市場の価格と今後の課題
ベースロード市場での取引は、原則として1年度に4回実施されています。
実施月は7月、9月、11月、1月の年4回。1月の開催回では、大規模発電事業者の参加は任意とのことで、年3回と説明されることもあります。
取引される商品は、翌年度のベースロード電源による電力。エリアによって価格が異なります。
例えば2022年1月28日に行われた取引では、東京エリアが14.87円/kWh、大阪エリアが14.5円。北海道エリアは「約定なし」でした。
なお、この価格はベースロード市場が始まって以来の最高値で、石炭の値上がりが原因とされているようです。
スポット市場価格より安いのかどうかは、いちがいには言えません。2021年度のこれまでのスポット価格の平均は11.51円/kWh*ですが、最高値が80円/kWh、1日平均で40円/kWhを超える日もあることをを考えると、リスクヘッジとしてはいいのかなあとも言えます。
*JPEXのスポット市場「システムプライス」を参照。2022年1月31日の取引情報を参照
ただ、買い手である新電力さんたちからは、取引量が少ない、市場の使い勝手が悪い、入札時期が早い、価格がまだ高いなどの不満の声があがっており、いまいち盛り上がりに欠けるという話も。
まあそもそも、大手電力会社の元小売部門であるみなし電力さんたちに、安くて安定したベースロード電源が集中するなんてことがなければ、ベースロード市場なんてものはいらなかったわけですしね。
賑わないうちにその役目を終えて終了、なんてことになるのが、新電力さんにとっても電力ユーザーにとってもいいことなのかもしれません。