「あなたの日本語だいじょうぶ?」と問われたらどうしましょう。多分「だいじょうぶじゃないかもしれません」と答えると思います。
いや、会社でメールを打ったり、チャットで返信をしたり、こうしてブログ記事を書いたりするときに、常に不安がつきまとっているんですよね。
言葉の意味を取り違えていないかとか、文章がねじれていないかとか。
ということで、金田一秀穂先生のご本「あなたの日本語だいじょうぶ?SNS時代の言葉力」は、日本を代表する言語学者に叱られる覚悟で、おそるおそる手に取りました。
目次はこちら。第1章から第3章までが描きおろしで、第4章は、雑誌「サライ」の連載「巷の日本語」より収録されたものです。
まえがき
第1章 失われた気配
第2章 これからの日本語
第3章 リモート時代の日本語力
第4章 不思議な巷の日本語
「回らない寿司屋」「二刀流」「あいうえお」「みだりに」「○活」「2回目」「経験値」「落としどころ」「投入金が不足しています」「歯磨き粉」「高級食パン」「激おこぷんぷん丸」「っす」「ダム汁」「痛っ」「ダメ出し」「日本語の壁」「うれしみ」「大器晩成」「ブースター」「潤い」「すみやかに」「〝そだねー〟」「井の中の蛙」「まじまんじ」「て」「乾物屋」「パリピ」「忙しい」「気もい形容詞」「高輪ゲートウェイ駅」「負けず嫌い」「アポ電強盗」「万葉集」「気分」「無理」「真逆」「打ち言葉」「肉肉しい」「身の丈」「にわかファン」「ワンティームの光と影」「聖地」「Jリーグ様」「不要不急」「ネコハラ」「スピード感」「面目ない」「街の声」「盛りは後になってわかる」「会食」「自己判断」「言霊」「小言」「昭和」「心が折れる」「そうめん」「出口戦略」「理解を願う」「フィルターバブル」「ハマる」「正解」「バールのようなもの」「成人」「やはり」「ゲリラ豪雨」「おしゃか」「卒業」
「第4章 不思議な巷の日本語」には、「不要不急」「会食」「自己判断」など、コロナ禍初期によく聞いた言葉を取り上げたエッセイが収録されています。ちょっと懐かしいですねえ。
特に印象的だったのは、「回らない寿司屋」の回です。
回転寿司が出現して普通のお寿司屋さんに「回らない」が付くようになりましたが、それと同じ現象が、コロナ以降は「授業」「ライヴ」でも見られるようになったという話。
何といいますと、「対面授業」「有観客ライブ」です。
考えてみると、コロナ前は授業もライブも人が集まってやるのが当たり前だったんですよね。
それが、コロナ禍でリモート授業、オンライン授業、無観客ライブのオンライン配信が一般化し、それらと従来の授業、ライブを区別するため、「対面」「有観客」を付けて言うようになりました。
いや、まったく意識してませんでした。こういう日本語の変化のしかたもあるのか!と、いたく感心した次第です。
ところで、冒頭に日本を代表する言語学者に叱られる覚悟で、と書きましたが、文法や語彙に自信がないというだけなら大丈夫、叱られることはないと思います。
金田一さんが本書において訴えるのは、日本語を大切にすることです。
この場合の「日本語を大切する」というのは、文法がどうとか本来の意味がどうとかいう些末な話ではありません。「正直な言葉遣い」をすることです。
本書で批判されているのは、小論文の型のような構成と結論のレポートを書いてくる学生や、言葉をいい加減に扱う政治家、記者クラブの閉鎖性について語ろうとしないマスコミなど。
彼らは「正直な言葉遣い」をしていない人たちに当たるようです。なるほど。一部の政治家はほんと、だんだんひどくなっているような気がしますね。適当なことを言い、嘘をつき、それを取り繕うともしなくなっている。そしてそのことを追求しないマスコミもひどい。
しかし、型にはまった構成のレポートの学生は、許してやってほしいと思いました。
というのは、思考の流れるままを文章に書き起こして人に読ませるレベルのレポートを作成するのは、初心者には至難の業です。
好評価を期待して、自分の実感にそぐわない結論や理由をでっちあげるのは問題ですが、作文の型の各パーツごとに自分の思いが入っているなら、それは「日本語を大切する」ことになるのではないでしょうか。
そうやって型を使ってレポートを書く練習を続け、一方ですぐれた先人の文章に触れるうち、型にはまらない文章が書けるようになってくるのではないかなあ、と私は思います。