福島第一原発関連のニュースで目にすることのある「ALPS処理水」とは?まずは、3行でまとめてみましょう。
ALPSで処理した水は「ALPS処理水」「処理水」とよばれる。放射性物質「トリチウム」が残っている
ALPS処理水を100倍ぐらいに薄めて海洋放出しようという計画が進んでいる
2021年12月21日、東京電力は、福島第一原発の「処理水」の海洋放出の計画について、申請書を原子力規制委員会に提出しました。
認可されれば、2022年6月に施設の工事に着手し、2023年4月の完成を目ざすことになります。
海洋放出という方針自体は2021年の4月に決まっていた。12月の申請は、「これこれこういう施設をつくって、ALPS処理水を海に放出しようという計画なんですがどうでしょうかね?」というものです。
申請によると、処理水を海水で100倍以上に希釈し、トリチウム濃度を国の基準の40分の1未満まで薄めるため、大量の海水を取り込むポンプを設置する。希釈後の水は新たに設置する海底トンネルを通して、原発から約1キロ沖合に流す。トンネルの出口は、漁業が行われていない海域に含まれるという。
放出前の処理水の放射能濃度は、タンク内でかき混ぜて、均質な状態で測定。異常があった場合などに備え、処理水の放出を止める緊急遮断弁も複数設置する。
東電、処理水の海洋放出計画を申請 23年4月に工事完了―福島第1原発、規制委に:時事ドットコム
たしかに放射性物質って言われたら心配になっちゃいますよね。以下、ALPS処理水の海洋放出の安全性やデメリットを詳しく見てみましょう!
東京電力福島第一原発の「処理水」とは?
まずは、東京電力の12月21日付プレスリリースを読んでみましょう。
本日、ALPS処理水希釈放出設備及び関連施設の基本設計等について、「福島第一原子力発電所特定原子力施設に係る実施計画変更認可申請書」を原子力規制委員会に申請いたしました。今後、原子力規制庁が行う審査に真摯に対応してまいります。
(中略)
ALPS処理水の取扱いにつきましては、引き続き、政府の基本方針を踏まえた取組を徹底するとともに、引き続き、関係者の皆さまのご意見を丁寧にお伺いし、さらなる安全確保を図ってまいります。多核種除去設備等処理水の取扱いに関する「福島第一原子力発電所特定原子力施設に係る実施計画変更認可申請書」の申請について|東京電力(太字筆者)
「ALPS」とは「Advanced Liquid Processing System」の頭文字をとったもので、「多核種除去設備」の通称とされています。原発事故で発生した汚染水に含まれるセシウム、ストロンチウムなどの放射性物質を取り除くための設備です。
※画像はイメージです。なおアルプスの英語表記はAlpes。
さあ…どうでしょうか。とりあえず、東電の英語版サイトでは「Multi-nuclide Removal Facility (Advanced Liquid Processing System = ALPS)」と表記されています。
「多核種除去設備」に対応する英語は、「Multi-nuclide Removal Facility」です。
それはさておき、この多核種除去設備、通称「ALPS」によって処理された水が「ALPS処理水」です。
こちらは、経済産業省の動画「ALPS処理水に関するお知らせ」です。
※2022年3月20日に、新たな動画「1F FACT 01 ALPS処理水の海洋放出」が公開されました。追加で貼っておきます。
ALPS処理水には「トリチウム」という放射性物質が残っています。
しかし動画によると、トリチウムは水素の仲間で、人体や食べ物の中にも含まれる物質であるとのこと。よってALPS処理水は、もと汚染水とは比べものにならないぐらい安全なのだそうです。
どう処分すれば安全なの?みんな納得してくれるの?という話し合いを重ねている間、ALPS処理水は福島第一原発の敷地内で保管されてきました。貯蔵タンクの数は、1000基を超えています。
*2022年3月16日に発生した東北を震源とする地震
保管タンク85基ずれる 福島第1、冷却一時停止 https://t.co/t2KQrQMfHl
— 河北新報オンラインニュース (@kahoku_shimpo) March 17, 2022
そうなんですよね。資源エネルギー庁の処理水についてのページによると、ALPS処理水のタンクは、福島第一原発内でかなりの敷地を占有しているとのことで。
廃炉作業のじゃまにもなるし、そろそろ溜まったALPS処理水を海洋放出してタンクをどかしたい!というのが国や東電の願いであるようです。
「復興と廃炉」に向けて進む、処理水の安全・安心な処分~ALPS処理水の海洋放出と風評影響への対応|資源エネルギー庁
ALPS処理水の海洋放出のデメリットとは
しかし国や東京電力がいくら「安全です」と言っても、一般市民の「でも汚染水を処理したものなんでしょ?なんかこわい」という感情をぬぐい去るのは難しいわけでして。
ALPS処理水の海洋放出で、せっかく回復しかけていた福島県産の海産物への評判がまた悪くなるかもしれないというデメリットがあるのも確かです。
では、ここいらで東京電力のALPS処理水海洋放出に関する申請の内容を、もう少しくわしく見てみましょう。
東電の公式サイトで公開されている「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する実施計画変更認可申請【概要】」という資料からの引用です。
目的
多核種除去設備で放射性核種を十分低い濃度になるまで除去した水が、ALPS処理水(トリチウムを除く放射性核種の告示濃度比総和1未満を満足した水)であることを確認し、海水にて希釈して、海洋に放出する。
設備概要
測定・確認用設備は、測定・確認用タンク内およびタンク群の放射性核種の濃度を均一にした後、試料採取・分析を行い、ALPS処理水であることを確認する。その後、移送設備でALPS処理水を海水配管ヘッダに移送し、希釈設備により、5号取水路より海水移送ポンプで取水した海水と混合し、トリチウム濃度を1,500ベクレル/㍑未満に希釈したうえで、放水設備に排水する。多核種除去設備等処理水の取扱いに関する実施計画変更認可申請【概要】(2021年12月21日東京電力ホールディングス株式会社)
資料の3ページに図解があります。ALPS処理水が安全基準を満たしているかどうかがチェックされた後、基準を満たした場合に「希釈放水設備」に送られるという仕組みのようです。
2-1.ALPS処理水希釈放出設備の全体概要
※出典:多核種除去設備等処理水の取扱いに関する実施計画変更認可申請【概要】(2021年12月21日東京電力ホールディングス株式会社)
放水トンネルの概要はこちら。資料の8ページから引用します。トンネルの長さは1kmです。
3-2. 関連施設(放水設備)の概要
※出典:多核種除去設備等処理水の取扱いに関する実施計画変更認可申請【概要】
(2021年12月21日東京電力ホールディングス株式会社)
2021年8月25日に公表された別の資料の7ページに、トンネルの長さや海水の分離について触れられた部分があります。「海底トンネル出⼝は、⽇常的に漁業が⾏われていないエリア内に設置」とのこと。
出典:多核種除去設備等処理⽔の取扱いに関する検討状況【概要】(2021年8月25日東京電力ホールディングス株式会社)
そうですね。東京電力のプレスリリースによると「関係者の皆さまのご意見を丁寧にお伺いし、さらなる安全確保を図ってまいります」とのこと。今後の対応に期待したいところです!
2023年8月22日追記:ALPS処理水の海洋放出が決定
2023年8月22日、政府の関係閣僚会議は同月24日に処理水の放出を始めることを決定しました。「国内外で計画への一定の理解が進んでいるとして」とのことですが、地元の漁業者や、中国・韓国などからは反対や懸念の声が上がっています。
2023年8月25日追記:処理水の海洋放出が始まる
東京電力は政府の方針に基づき、2023年8月24日午後1時ごろ「処理水」の海への放出を始めました。
福島第一原発の敷地内にたまった「ALPS処理水」をさらに海水で薄め、トリチウムの濃度が基準値以下であることを確認して、海底トンネルを通じて約1Km沖に放出します。
24日から始まった初回の放出は17日間にわたる予定で、これにより7800トンの処理水が薄められ海に出されるそうです。今年度全体の予定放出量はタンクおよそ30基分の3万1200t。これは敷地内のタンク全体の2%だそうです。