環境省の「脱炭素アドバイザー資格の認定制度」の公式サイトが、2023年9月26日にオープンしました。今後、「脱炭素アドバイザーになるには?」といった需要が出てくるかと思いますが、「資格」「認定」という言葉がどこにかかっているかが一見わかりくいんですよね。色々と誤解もありそうな制度なので、できる限りわかりやすく説明してみたいと思います。
環境省の「脱炭素アドバイザー資格の認定制度」
「脱炭素アドバイザー資格の認定制度」とは、脱炭素についてのアドバイスができる知識を持った人を養成する民間資格を環境省が認定する制度です。
脱炭素についてのアドバイスができる知識とは、企業に対して
- 気候変動対応の必要性
- 脱炭素の経営上の重要性(リスクや機会)
- 温室効果ガス排出量の計測方法や削減手法
- 脱炭素にともなうコストの考え方
が説明できてアドバイスができるぐらいの知識、ということになるかと思います。
最近で言う「脱炭素人材」「GX(グリーントランスフォーメーション)専門人材」「サステナビリティ人材」などと呼ばれる人が持っているとされる知識ですね。こういった知識が身に付くような民間資格を環境省が認定し、それらの資格を取った人は「環境省認定制度 脱炭素アドバイザー」と名乗ってもいいよ、というのが「脱炭素アドバイザー資格の認定制度」です。
環境省が「脱炭素アドバイザー」という資格試験を始めたというわけではありませんので、この点注意が必要です。
環境省の「脱炭素アドバイザー」認定資格
じゃ、その「民間資格」ってどんなのよ?という話ですが、2023年9月30日現在、環境省の認定を受けているのは、次の5つの資格です。( )は実施団体。資格名(運営団体)として記載しています。
「脱炭素アドバイザー ベーシック」認定資格一覧(2023年9月30日現在)
- サステナビリティ検定「サステナビリティ・オフィサー」(一般社団法人金融財政事情研究会)
- 銀行業務検定試験CBTサステナブル経営サポート(株式会社経済法令研究会)
- SDGs・ESG金融(一般社団法人金融検定協会)
- 炭素会計アドバイザー資格3級(一般社団法人炭素会計アドバイザー協会)
- GX検定ベーシック(スキルアップAI株式会社)
これらの認定資格を取った人は、「環境省認定制度 脱炭素アドバイザー ベーシック」を名乗ったり、名刺に書いたりすることができます。
脱炭素アドバイザー認定資格にもランク付けがある?
ここで、「あれっちょっと待って、“ベーシック”って何よ?」とお思いの方がいらっしゃると思います。そうなんですよ。ここがややこしいところなんですが、環境省は脱炭素アドバイザーに三つのレベルを設けているんですね。
ざっくり言うと、易しい順に「ベーシック」「アドバンスト」「シニア」です。
・脱炭素アドバイザー ベーシック
脱炭素に関する顧客とのコミュニケーションの前線に立ち、顧客の状況に応じて必要な対応を見定める営業職員
気候変動対応の必要性の説明、脱炭素経営・温室効果ガス排出量削減に関する企業からの相談内容の把握ができる・脱炭素アドバイザー アドバンスト
脱炭素に関する顧客アドバイスの現場において、中核的な役割を果たす職員
脱炭素経営の重要性(リスク・機会)、温室効果ガス排出量の計測方法・削減手法について説明ができる・脱炭素シニアアドバイザー
企業の本部・脱炭素専門部署等で専門的なコンサルティングに従事する職員
脱炭素に関する包括的なアドバイス(温室効果ガス排出量計測・削減手法の例示、SBT目標設定支援、TCFD開示支援)ができる
GX検定ベーシックや、炭素会計アドバイザー3級など五つの資格は、初級にあたる「脱炭素アドバイザー ベーシック」の認定資格なんですね(上記で太字にしてあるランク)。
「脱炭素アドバイザー アドバンスト」と「脱炭素シニアアドバイザー」の認定資格は、2023年9月30日現在、まだありません。この点は現在、環境省における認定作業や各運営団体の申請作業が進んでいるところかと思います。
例えば、「GX検定」は、「ベーシック」「アドバンスト」「スペシャリスト」の三つのレベルを用意しています。
このうち「GX検定ベーシック」が環境省の「脱炭素アドバイザー ベーシック」の認定資格。「GX検定アドバンスト」は「脱炭素アドバイザー ベーシック」の認定申請中で、「GX検定スペシャリスト」は「脱炭素シニアアドバイザー」に認定申請予定だそうです。
「脱炭素アドバイザー ベーシック」認定資格5つを比較してみよう
さて、ここからは「脱炭素アドバイザー ベーシック」の認定資格5つを個別に見ていきましょう。受験資格、受験料、学習教材などを比較してみたいと思います。
きんざい運営のサステナビリティ検定「サステナビリティ・オフィサー」
「サステナビリティ検定」とは、一般社団法人金融財政事情研究会(通称「きんざい」)が、2022年9月に始めた資格試験です。SDGs・ESGを主な範囲とする「SDGs・ESGベーシック」と、上位「サステナビリティ・オフィサー」の2種目があり、うち「サステナビリティ・オフィサー」が、環境省の「脱炭素アドバイザー ベーシック」の認定資格となりました。
- 受験資格:なし(誰でも受験可)
- 試験の形式:CBT
- 受験料:6,050円(税込み)
- 教材:対応問題集あり
https://www.kinzai.jp/cbt_books/
銀行業務検定試験CBTサステナブル経営サポート
銀行業務検定協会が運営する資格試験のうち、2022年7月にスタートした「CBTサステナブル経営サポート」が認定資格となりました。
- 受験資格:特に記載なし
- 試験の形式:CBT
- 受験料:4,950円(税込)
- 教材:対策問題集あり
なお、環境省の認定資格として実施されるのは2023年10月からですが、それより前に「CBTサステナブル経営サポート」を取得している人は、フォロー研修(動画)の受講と、アンケート回答により、環境省「脱炭素アドバイザー ベーシック」認定者となります。
SDGs・ESG金融検定試験
金融検定協会の公式サイトによると、「SDGsやESG金融の基本から、これらをベースにした金融機関職員としての考え方・金融ビジネスへの繋げ方や取引先支援の考え方に関する知識の習得度合いを計るものです」とのこと。
公式ページに「多くの金融機関様からのご要望にお応えして、緊急開催!」という文言が見られますが、受験資格、試験の形式について説明しているページにはたどり着けず。ひとまず理解できた項目だけ書きます。見つかり次第追記します。
- 受験料:4,950円(税込)
- 教材:公式模擬問題集あり『新訂 SDGs・ESG金融検定試験模擬問題集』(金融検定協会編・銀行研修社刊行)
炭素会計アドバイザー資格3級
2022年7月1日設立の一般社団法人 炭素会計アドバイザー協会が実施する「炭素会計アドバイザー資格」の3級が、環境省「脱炭素アドバイザー ベーシック」の認定資格です。
協会参加組織の一つである株式会社ウェイストボックスは、ESG投資の基準として影響を持つ国際的な環境非営利団体「CDP」の気候変動コンサルティングパートナーです。炭素会計アドバイザー資格制度には、そのウェイストボックスの知見と研修コンテンツを反映させるとのこと。
参考:日本生命など5社、炭素会計アドバイザー協会を設立|日本経済新聞(2022年6月30日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP635618_Q2A630C2000000/
- 受験資格:誰でも受験可
- 試験の形式:CBT
- 受験料:一般8,800円/会員*5,800円 *会員=炭素会計アドバイザー協会の法人会員企業の従業員
- 教材:受験資格を得るための講習あり(145分の動画視聴・一般5,800円/会員3,000円)
- その他:更新制度あり
ちなみにウェイストボックスのe-ラーニングのページはこちら。SDGs、ESG投資、スコープ算定などの基礎知識を学ぶのによさそうです。
https://wastebox.net/e-learning/
ところで気になる試験の難易度ですが、2023年7月から8月にかけて実施された第2回の合格率は76.8%。4月から5月にかけて実施の第1回の合格率が95%でしたから、難化しているのかも。取るなら早いうちかもしれません。
【第2回 炭素会計アドバイザー資格3級試験】実施結果を発表(PDF)
GX検定ベーシック
GX検定には「ベーシック」「アドバンスト」「スペシャリスト」がありますが、うち「ベーシック」が環境省認定制度「脱炭素アドバイザー ベーシック」の認定資格です。2023年9月に認定を受けました。
試験の難易度としては、「GXの必要性や国内外の動向、主要な政策・技術を説明でき、脱炭素経営・排出量削減に関する企業の現状を正しく理解できるレベル」とのこと。企業が全社員のGXに関するリテラシーの底上げとして利用することを期待しているようです。5つの認定資格の中では、もっともとっつきやすい印象。
- 受験資格:ビジネスパーソン全般 (受験資格制限無し)
- 試験の形式:オンライン実施(自宅受験)
- 受験料:5,500円 *会員=炭素会計アドバイザー協会の法人会員企業の従業員
- 教材:カーボンニュートラル入門講座【無料トライアルあり】(eラーニング形式、2時間、5,500円/1名(税込み))
- 更新:なし(有効期限なし)
結局、「脱炭素アドバイザー資格の認定制度」のメリットは?
ということで、このページでは環境省の「脱炭素アドバイザー資格の認定制度」の概要と、「脱炭素アドバイザー ベーシック」の認定資格五つをご紹介しました。
まとめますと、
- 環境省主催の「脱炭素アドバイザー」という資格試験はない。
- 環境省が民間の資格試験を認定し、これらに合格したら「環境省認定制度 脱炭素アドバイザー」を名乗ってもよいよ、とお墨付きを与える企画
- 環境省の「脱炭素アドバイザー」には「ベーシック」「アドバンスト」「シニア」の三種があるが、2023年9月30日現在、認定資格が決まっているのは「ベーシック」のみ
- 「脱炭素アドバイザー ベーシック」の認定資格は5つ(サステナビリティ検定「サステナビリティ・オフィサー」 、銀行業務検定試験CBTサステナブル経営サポート、SDGs・ESG金融、炭素会計アドバイザー資格3級、GX検定ベーシック)
素朴な感情として、環境省の役割ってなんやねんという疑問がわいてきますが、「脱炭素アドバイザー資格の認定制度」のガイドラインによると、
- GHG排出量の算定、削減目標の設定、具体的な削減策の実施、財務面を踏まえた設備投資の検討や経営方針への反映、資金調達のあり方の策定には専門的な知識を備えたアドバイザーの支援が必要だ
- 国全体として、そういったアドバイザーを育成したい
- そこで、適切な事業者が一定の基準を満たした教育プログラムを提供する場合に、国として認定を与える枠組みをつくる
という目論見があるようです。要は、GX人材やサステナビリティ人材を増やす必要があるので、そういった方面の教育を盛んにしようということだと理解しました。
一方、この制度を通じて学ぶ側のメリットは何でしょうか。
私自身が感じている期待は、認定資格のうちどれかを受験することで、日ごろのCO2排出量集計の業務で断片的に身につけた知識が体系化されるのではないかというものです。
ややこしいScopeとかバウンダリとか排出係数とか証書とかの知識が整理できて、「環境省認定制度 脱炭素アドバイザー」の肩書まで手に入るなら、お得感あります。
ただ気になるのは、そもそもこれらの認定資格が、環境省の制度ありきの急ごしらえのものではないかと思われるところ。脱炭素を真面目に考える企業の皆さんは、その辺の事情を把握しているのではないかと思うんですよね。
となると、脱炭素関連の業者の社員が「環境省認定制度 脱炭素アドバイザー」と名刺に刷って営業に赴いたところで、コイツは何ができるんだろう?という目で見られてしまう可能性があるかもしれず。これは悲しい。
さらに、認定資格の運営元が何かをやらかし、環境省の認定が取り消しになってしまった場合、「脱炭素アドバイザー」の名称は使えなくなるというきまりもあることですし。
ということで、自身が脱炭素アドバイザーの認定資格を取るか、取るとしてどれにするかは慎重に見極めようというのが、今のところの結論です。
資格好きの血はさわぎますけどね。コンプリートして比較するのも面白いかもしれません。