日経の「20年度電源構成、火力が76.3%に上昇 脱炭素遠く」という記事について。「環境省が10日発表した2020年度の温暖化ガス排出量は前年度比5.1%減った」という書き出しで始まっている記事です。
環境省が10日発表した2020年度の温暖化ガス排出量は前年度比5.1%減った。リーマン・ショック後の09年度以来の下げ幅だが、新型コロナウイルス禍の影響を踏まえると小幅との見方もある。原子力発電所が定期検査などで停止したため総発電量に占める火力の比率が76.3%と0.7ポイント増え、電源の脱炭素化は遠のいた。
ねっ再エネ伸びないでしょ?だから原発活用ね?って流れになりそうでイヤだな
20年度電源構成、火力が76.3%に上昇https://t.co/ADGPgqNmxt— 電力プロの小秋さん (@koakisan) December 10, 2021
記事全体をものすごくざっくり要約すると、
「コロナ禍をふまえるともう少し排出量が下がってもいいような気がするんだけど、定期点検とかで原発がいくつか停止してたから火力の割合が上がっちゃったね。再エネはあんまり伸びなくて原発の停止分をカバーしきれなかったね。2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で46%減にするためには、再エネの電源構成比を36~38%、原発を20~22%にしないといけないんだけど実現は難しいかも。そういえば、欧米は再エネ拡大とともに原子力も活用しようとしているみたい。その点日本では福島の事故以来、原発の新設や建て替えの話を表立ってできない空気があるけど、それってどうなの」
というところでしょうか。私の受け止め方が正しいかどうかは分かりませんので、とりあえず記事に含まれる数字を見てみることにしましょう。
- 2020年度の温暖化ガス排出量は前年度比5.1%減
- 総発電量に占める火力の比率は76.3%(前年度比0.7%増)
- 総発電量に占める原発の比率は3.9%(前年度は6.2%だった)
- 総発電量に占める再生可能エネルギー比率の伸びは1.7%
元データを求めて、環境省のページに行ってみました。
2021年12月11日現在、温室効果ガス排出・吸収量等の算定と報告~温室効果ガスインベントリ等関連情報~のページで見られる「速報値(2021年12月発表)」に、「2020年度の温暖化ガス排出量は前年度比5.1%減」のソースがあります。
2020年度の我が国の温室効果ガス総排出量:11億4,900万トン(二酸化炭素(CO2)換算)
前年度の総排出量(12億1,100万トン)と比べて、5.1%(6,200万トン)減少。
出典:2020年度(令和2年度)温室効果ガス排出量 全体版
しかし、困りました。電源構成比のデータがこのPDFには含まれていないのです。温室効果ガス排出量の話から電源構成比の話にナチュラルに続いているので、てっきり同じところで見られると思ったのですが。
しばし検索したのち、結局、電源構成比のデータは資源エネルギー庁の「集計結果又は推計結果(総合エネルギー統計)」のページで見ることができることが分かりました。まあこんなの常識ってことなんですかね。
令和2年度(2020年度)エネルギー需給実績を取りまとめました(速報)
5ページ目に「電源構成と最終電力消費」という表があります。2019年度と2020年度の電源別の発電電力量を抜き出して電源構成比を計算し、比較してみました。火力の増分は2019年度比で0.7%増で、再エネの増分は1.7%。一方、原子力は-2.4%減ですので、「再エネでカバーできなかった分を火力で補うことになっちゃったじゃん」という主張はありなような気がします。
年度 | 2019 | 2020 | 2020年度と2019年度の 差分②-① |
||
電源 | 発電電力量(億kWh) | ①電源構成比 | 発電電力量 | ②電源構成比 | |
原子力 | 638 | 6.2% | 388 | 3.9% | -2.4% |
石炭 | 3,266 | 31.9% | 3,101 | 31.0% | -1.0% |
天然ガス | 3,829 | 37.4% | 3,906 | 39.0% | 1.6% |
石油等 | 641 | 6.3% | 636 | 6.4% | 0.1% |
火力発電計 | 7,736 | 75.6% | 7,643 | 76.3% | 0.7% |
水力 | 796 | 7.8% | 784 | 7.8% | 0.0% |
太陽光 | 694 | 6.8% | 791 | 7.9% | 1.1% |
風力 | 76 | 0.7% | 90 | 0.9% | 0.2% |
地熱 | 28 | 0.3% | 30 | 0.3% | 0.0% |
バイオマス | 261 | 2.6% | 288 | 2.9% | 0.3% |
再エネ合計 | 1855 | 18.1% | 1983 | 19.8% | 1.7% |
合計 | 10,230 | 10,013 |
ということで、電源構成比についてはまあ納得できたのですが、12月10日の環境省の温室効果ガス排出量公表に合わせて、11月26日公表の電源構成比の話をするっと出してきたあたりには不信感を覚えました。「原発の話は表立ってできない」と言ってるんじゃなくて、積極的に議論を巻き起こすような記事を期待したいところです。