昔、「白いシャツは定番アイテム」「白いシャツが似合う大人にならなければ」と考えていたことを思い出しました。また、それが私の服装における縛りになっていた時期があったことも。
きっかけは、図書館でたまたま見つけた、スタイリストの伊藤まさこさんの本『白いもの』でした。
本書は、「ほぼ日刊イトイ新聞」に2012年から2015年まで連載された「白いもの。伊藤まさこさんと「白」をめぐる、ちいさな旅。」を再編集&再撮影して書籍化したものです。
ベッドリネン、カーテン、コーヒーミル、皿、カップ、シャツ、鍋…ふと気がつけば私のいつもの毎日は白いものにかこまれている。
どうして白が好きなんだろう?
そんなふとした疑問からこの本ができました。(伊藤まさこ著「白いもの」まえがきより)
タイトルどおり、この本では伊藤さんの生活を囲む「白いもの」が多数紹介されています。こうして並べてみると、一口に「白」といっても、素材によりかなり色合いの幅があることが分かって興味深いです。例えば竹、ウール、琺瑯の「白」は全く違うんですね。
さて、冒頭に書いた、自身の白シャツの記憶がよみがえったきっかけは、伊藤氏とフリー編集者の岡戸絹枝氏の対談部分でした。
「ほぼ日」でも読めます↓
岡戸絹枝さんと、白いシャツ。
岡戸さんは、フリーになる前はマガジンハウスに勤めていた人で、同社の『Olive』『ku:nel』では編集長を務めていた女性。伊藤まさこさんいわく、
「わたし、岡戸さんが白いシャツ以外の服を着ているのを見たことがないんです」
とのことで、ご本人が「そう!」と肯定するところから対談は始まります。
話題は、岡戸さんが持っているさまざまなブランドの白シャツから、白いシャツを仕事着にする理由、映画『ローマの休日』のヘプバーンの白の開襟シャツなどに及ぶのですが、登場するキーワードに何やら既視感がありました。
マーガレットハウエルにヘプバーン。おそらく、私がファッション雑誌を読み始め、「白シャツは定番」なる知識を仕入れた80年代後半から90年代、岡戸さんは影響力のある「中の人」だったのではないでしょうか。
そして、当時、10代から20代後半だった私と伊藤まさこさんは、ともにその価値観を刷り込まれたのですが、伊藤さんがそのままエリートとして成長した一方で、私は脱落したということなのでしょう。
いや、私もワードローブに白いシャツを取り入れようと努力したんですけどね。いろいろと難しかったです。意外と組み合わせる服を選ぶし、透けるし、汚れが目立ちやすいし。あと、色合い(同じ白でも青寄りとか黄寄りとか)を間違えると顔映りがめちゃくちゃ悪い。
対談によると、岡戸さんも伊藤さんも、白シャツは「ラク」で手入れも苦にならないそうですが、おそらく彼女らの言う「ラク」と、自他ともに認める怠惰な人間である私の「ラク」は天地ほどの開きがあるのでしょう。
ちなみに現在は、白シャツは転職活動用にしぶしぶ購入した1着しか持っておらず、定番は、黒か紺のTシャツです。汚れに神経をとがらせる必要がなく、アイロンも不要。顔映りも問題なし。
ファッション誌に書かれたことをそのまま取り入れるのではなく、自分の性格容姿などを客観的に見ることができていれば、お金と時間を無駄にせずにすんだのかもしれない……図らずもそんなことを考えさせられた伊藤まさこさんの本『白いもの』でした。